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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

広告業務の悩みの素「システムなき属人性」

更新日:2023年3月22日

広告代理店の最も重要な要素は紛れもなく「人」である。この「人」が生み出す「アイデア」や、人と人のつながりの代表格であった「マス媒体へのネットワーク」によって、利益を創出してきた。著者が総合広告代理店に入社した2004年はまさにその最中にあった。しかしながら、広告代理店を介在しないと買い付けができなかったマス媒体とは違い、広告主自ら広告買い付けできてしまうネット広告が最も重要な媒体となった今、「人」への解釈が大きく揺らいでいる。「人」は必ず「属人性」を生み出しているのだ。本稿では、広告の悩みの素となる「属人性」について説明していく。


目次:広告業務の悩みの素「システムなき属人性」


「人」抜きにビジネスは成り立たないが「属人性」排除

どんなにAIが一般化しようとも、「人」を抜きにしたビジネスは成り立たない。それは誰も異論がないと思う。しかし、日本、いや世界で持続的な成長を成し遂げている企業は、人というよりは、人によって生じてしまう差、つまりは「属人性」を徹底排除したビジネスである。これには大きく2つの「属人性」排除方法がある。1つ目は「徹底的なマニュアル作成」である。たとえば、日本マクドナルドは全国2900もの店舗でクルーと呼ばれるアルバイトスタッフが約15万人も働いている。どの店舗にいっても画一的なサービスを受けられる理由は徹底したマニュアルの存在である。微に入り細に入りルール化されたマニュアルによって、低価格だが高品質なサービスを画一的に提供できているのだ。これが1つ目の「属人性」排除方法である。2つ目の「属人性」排除方法は、頻繁な人事異動とシステム導入である。社会の要請に従って頻繁な人事異動とシステムを導入している企業も多いが、システム導入は自ずと社内にいくつものルールを作ることにもつながるため、結果的に属人性、つまりは例外やルール違反を排除することにつながる。DXという流行りコトバもこの解釈に基づけば、企業が導入を急ぐことも頷けるだろう。これはあえて例示するまでもなく、「属人性」を排除する代名詞であるIT企業などはすべてこの分類に入り、成長していることもあえて説明することもないだろう。


未だに「人」に依存したビジネスモデルの広告業務

かたや、広告業務はどうだろうか。未だに「人」を中心としたビジネスを行い、結果的に「属人性」の真骨頂のようなビジネスモデルである。マスメディアとのつながりも極めて属人的であり、クリエイターをはじめとした社内スタッフも人によって大きな差が出てしまう。広告主との関係は、広告主側の頻繁な人事異動によって属人性は低下しているものの、広告代理店社内では「属人性」が未だに大腕を振って闊歩している状況にある。



差が付きづらい「属人性」と差が付きやすい「属人性」

広告代理店社内に存在する「属人性」も職種によって差が出やすいものと差が出にくいものが存在する。差が付きにくい職種は「メディアスタッフ」である。デジタルは基本的に数多データがあるため差が付きづらい。マス媒体担当スタッフも、属人性があれど、大した差にはならない。これら「メディアスタッフ」はそこまでの属人性とはならないのだ。また、ユーザーやターゲット調査を論拠に方針を考えるストラテジックプランナーも大きく差が出ないと著者は考えている。大きく差がつくのは、クリエイターやプロモーションプランナーである。準拠するデータがないためであろう。この「企画」に携わる職種がもっとも属人的なビジネスとなるのである。


クリエイターやプロモーションプランナーの「属人性」

「属人性」をもう少し具体的に解説していく。クリエイターやプロモーションプランナーの「属人性」は大きく2つの問題を孕んでいると考えている。1つ目の問題は「クオリティ」の差だ。著者は、市場のトレンドや自社商品のトレンド、市場における自社商品のシェア及びランクと競合ベンチマーク設定、主たる販路、その販路におけるシェアの差、自社ECの存在などで、行うべきプロモーションのフレームやメッセージなどは自ずと規定されると考えている。つまり、極めて左脳的な作業になるはずなのだ。しかしながら、クリエイターやプロモーションプランナーはこういった市場におけるコンディションを抜きにして提案を行ってしまうことがある。このあたりは「クリエイティブの誤解~クリエイティブは左脳作業~」をご覧いただきたい。元ストラテジックプランナーのクリエイターなどは、市場への意識が高い方もいらっしゃるが、そうでない方も多い。こういったときに人による提案内容の「差」が問題であると常々考えていた。そして、2つ目の問題は「スピード」である。これこそ「属人性」がもたらす最大の問題ではないだろうか。プロモーションプランナーは頻繁にブレストなどを行うが、ブランドが向かうべき方向ではない方向へジャンプしていってしまうことも多いのだが、そういったタイプの人ほど、提案が上がってくるのが極めて遅かった。オリエンから提案まで1カ月かかるなどはざらにあったと思う。これではスピードが極めて速い今のビジネスにおいては提案の意味をなさなくなってしまうのだ。「クオリティが高く」「スピードが速い」スタッフに業務が集中することになるが、今は36協定の中で仕事を断るケースも増えており、結果的に「クオリティが低く」「スピードが遅い」スタッフを起用せざるを得ないケースも増えてしまう。こうして、広告主から同じ費用を預かるにも関わらず、広告代理店社内の「属人性」によって、満足を得られないケースも増えてしまうのだ。


「属人性」をなくすには「マニュアル」と「システム」

人事異動による「属人性」排除は極めて有効に作用するが、「広告代理店が「広告全領域の専門家」と思われない理由」でも説明しているように、非資格専門職である広告代理店は一定量の業務経験がないとプロにはなれない。伴って、頻繁過ぎる人事異動はセミプロの量産となりかねない。その場合、頻繁な人事異動は「属人性」の排除は可能にしても、プロとしての機能を劣化させるために、得策ではない。残るは「マニュアル」「システム」である。この2つは「属人性」の排除には有効に作用すると思われる。著者も総合広告代理店時代に、20代を終わるころには後輩に向けて、100ページ以上の業務マニュアルを作って共有していた。経営戦略やマーケティング戦略、営業として行うべきことなど多岐にわたっていたが、それを「クレド」として共有していた。熟読してもらえさえすれば、行動指針になり、著者と同じように立ち回り事ができるのである。この「マニュアル」については、難易度低く実行できるのではないだろうか。次に「システム」である。総合広告代理店には、メディア出稿量算出や海外市場調査データ、国内大規模調査データ、メディアプランニングシステム、タレントデータベースなどがあるが、クリエイターやプロモーションプランナーの属人性を排除するためのシステムはなかった。そして、世の中にも「アイデアのためのシステム」「企画のためのシステム」は存在していない。これが、著者が問題視していたことである。



広告に関する悩みの素は「属人性」にあると著者は考えている。人によってスピードやクオリティが変わる時点で、本来はクライアントのビジネスに役立つことが本分であるにもかかわらず、逆に問題を増やしているのではないだろうか。「広告トータルプランニング会社」である当社を設立した今も、著者は徹底的に「属人性」を排除するにはどうしたら良いかの思考に時間を割いている。いかにこの「属人性」問題を解決していくのか、広告代理店に課せられたお題は難題である。

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