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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

【解説】先行投資が少ないことで養われない広告代理店の「未来予測力」

更新日:2023年3月22日

かつて、広告代理店といえば、「ブーム」を生み出す存在としても社会から認識されていたのではないだろうか。少なくとも、総合広告代理店に勤務していた17年の間、著者も広告主からそのようなことを聞いていたし、期待されていた。しかし、今は「ブームを生み出す担い手」として、社会からは認識されていない。すべては「未来予測力」がなくなってしまっていることにあるが、なぜそうなってしまったのか。本稿ではこの点について説明していく。


目次:先行投資が少ないことで養われない広告代理店の「未来予測力」


「ブームの担い手」だったかつての総合広告代理店

かつては、世の中で「ブーム」になっている事柄について、その多くはCMなどのマス広告を行っていた。よって、高度経済成長期までは「ブームの担い手」=「CMを扱っている広告代理店」という図式が生まれていたと思う。そして、その「ブーム」の賞味期限も、今よりはずっと長かった。「少ブランド多品種少量生産時代のプロモーションとは」でも説明しているように、それは少品種大量生産時代であったからだ。新たな商品が生まれづらい環境にあったため、ブームが持続していたのだ。こうして、特に広告主をはじめとして「ブームの担い手」=「広告代理店」という図式が出来上がっていくのである。


データやデジタルがないからこそ生まれた「ブーム」

ではなぜ、CMなどの広告によって「ブーム」が起こったのか。それは、限られたメディアで、生活者自らがその証拠を集めることもできない中、「ブームである」と言われていたからである。ニュースでその商品を買わんと殺到する列を見て、「ブームなんだ」と人は認識していた。さらに、大量に広告も流れてくる。「流行っているに違いない」と感じ、自らも購入するスパイラルができていた。しかし、今は本当にブームなのかは、SNSでのトレンドや、ネット検索をすればすぐに実態を知ることができる。そのブームが一部の消費者によってもたらされていることも把握できてしまうのだ。つまり、「ブーム」とは本来、「雰囲気」と同義であったのが、実態を把握する術がなかったがために人は妄信していたということになる。そして、今はその実態を把握できるようになり、広告を打っているからと言って、ニュースになっているからと言って、人は釣られるように購入をしなくなってしまったのだ。こうして、次第に広告代理店は「ブームの立役者」でなくなっていく。


「未来予測力」を期待されなくなった広告代理店

実は、もともと広告代理店が「未来予測力」に長けていたわけではなかった。限られたメディアと、大手広告主から受託するTVCMなどの広告によって、そう社会から認識されていただけであった。総合広告代理店各社は「未来予想図」なるものを自主的に発表するが、その多くはどこかからの記事の抜粋であり、独自の仮説に基づく未来予想図ではないのだ。そこに、データとデジタルという存在が普遍的なものになっていく。するとどうだろう、より「現状把握」に注力し始めるようになるのだ。購買データや市場調査で、かつてとは比べ物にならないくらいの「現時点データ」の把握が可能になった。その現時点データを整理し、グルーピングし、課題を発見することに、広告代理店の特にストラテジックプランナー達は躍起になることになる。「現状把握」に膨大な時間を割くようになるのである。



事業会社は常に「未来志向」

メーカーであれば工場施設やライン確保も含めて先行投資が必要になる。また通信会社にしても、通信設備への投資など、先行投資が莫大な金額になる。つまり、広告主である事業会社は常に未来志向なのだ。それは数年先を読んで先行投資を行い、回収していくビジネスモデルが当たり前だからである。よって、当然現状把握は大事でありながらも、未来を予測し、持続的な成長をどのように実現していくかに、神経を集中させているのだ。



広告主と広告代理店とでかみ合わない視点

「現状把握に躍起になる広告代理店」に対して、「広告主は未来」を見ている。こうして、視点がかみ合わない関係性が生まれてしまう。特に市場調査などを担当する広告代理店のストラテジックプランナーはなかなか広告主のブランドマネージャー、いわゆるブラマネと会話がかみ合わなくなるのだ。確かに、未来への示唆は現状の調査からは把握しづらいのかもしれない。博打的な様相を呈することもある。しかし、事業会社である広告主はそれ以外望んでいないのである。課題の発見よりも優先的に未来予想図の提示なのだ。


未来予想図の作り方

ではどのように未来予想図を作るのか。それは先行者事例収集に他ならない。たとえば、他市場の事例だったり、他国の事例などがそうであろう。日本で成長している市場で、いわゆる先進国事例で参考になるものは山ほどある。著者は、のちに「ガラパゴス」と揶揄されることとなった、某大手通信会社の担当をしていたときも、幸いなことに海外の事例を多く研究する機会を頂いた。某大手食品メーカー担当時代にも、先進国事例を収集する機会が多かった。端的に言うと、その先行者事例通りの結果になっていたように思う。「自分たちの未来は、人にとっては過去である」という考え方に則ると、未来予測がしやすくなるのだ。


現状把握が大事であることは言うまでもない。しかし、それよりも未来予想図を作る力、つまりは「未来予測力」が大事なのだ。しかも、その力の付け方は意外にも簡単である。著者はどちらかというと「現状把握は当たり前として、未来予測を行う」ことを信条として「広告トータルプランニング会社」を営んでいるが、事業会社である広告主と広告代理店とが同じ視座で多くの会話がなされることを期待している。



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