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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

優秀なアートディレクターは言葉を持っている

更新日:2023年3月22日

17年の総合広告代理店勤務時代に、社内外問わず、著者は多くの広告クリエイター達と仕事をしてきた。大御所と呼ばれるアートディレクターとも多く知り合い、仕事をすることもできた。広告制作に欠かせないクリエイティブディレクターやアートディレクターといった一般のビジネスからしたら特殊な職種。優秀なクリエイティブディレクターの要件については、また別途説明するとして、本稿では優秀なアートディレクターの要件について説明してきたいと思う。


目次:優秀なアートディレクターは言葉を持っている


アートディレクターとは何なのか

広告には数多くのスタッフが関わる。特に広告クリエイティブ開発には、CDと呼ばれるクリエイティブディレクター、ADと呼ばれるアートディレクター、そしてプランナーと呼ばれるCMプランナーに、コピーライター、デザイナーなどが多くのスタッフが関わるのだ。中でも、著者はアートディレクターの存在が極めて重要だと考えている。なぜなら、多くの人が言葉を使って生きているため、コピーライターは残酷にも「自分にもこのコピーなら書けるのではないか」と広告主に思われがちだ。クリエイティブディレクターも広告主からすれば全体統括責任者の色合いが強い。そこで、アートディレクターの登場である。基本的には芸術大学を卒業して、フォトショップやイラストレーターなどを使いこなし、デザインらしいことができる人が増えたとしても、まだまだ「全デザイナー時代」にはほど遠い。デザインはまだ一部の限られた人の特権なのである。その中にあって、アートディレクターは明らかに「自分にはできないこと」を実現する存在なのだ。



自分にはできないが、自分の思いも伝わらない存在

しかし、アートディレクターの中には、広告主の意図をくみ取らず、一向に広告主にフィットするデザインを上げてこない人も多かった。微に入り細に入りこだわることは重要だが、俯瞰的にビジネスを見渡すことができる人が限られているのだ。著者は18年の歴史の中で多くのADと仕事をしてきたが、著者も次回も別の仕事をしたいと考えられるADは極めて少なかった。では、なぜADの思いもこちらに伝わらず、広告主の意図もデザインに反映できないのであろうか。


アートディレクターの差は、言語理解と言語化

単刀直入に言うと、言語理解と言語化の能力がADの差になると著者は考えている。基本的に、思考は「言語」によって行われる。「言語理解」し、言語を分解することで、その視点の幅によってデザインの幅が生まれるのである。たとえばで、極めて情緒的な言語だけで例示していく。「気持ちが急に前向きになるような、体験。」というコンセプトがあったとしよう。デザインの視点は「気持ち」という部分にフォーカスして、イラストでハートマークをつくるなり、「気持ち」というフォントを用いるなり、人の胸あたりにフォーカスをあてることができる。次に「急に」にフォーカスすると、直線でそれを表現するでも、右から左に急に動くようなさまでも構わない。「前向き」にフォーカスすれば、色を暖色で表現したり、人の表情で前を向いている様子にしたりする。「体験」にフォーカスすれば、驚きの表情だったり、手で何かを触ろうとする絵も浮かぶだろう。このどれかなのか、いくつかの組み合わせによって、デザインは確定していく。つまり、いかに「言語を分解してどこに注視点を置くのか」でデザインは固まるものだと著者は考えている。同時に、「言語化」の能力もADには求められる。こういったデザインという一見抽象的なことをどのような視点に沿ってデザインをしていったかの、思考のプロセスを広告主に伝える必要があるのだ。つまり、「プロセス説明の言語化」が必要なのである。これができなければ広告主を納得させることができない。これが、ADには言語理解と言語化の双方が求められるのである。



デザインとは言語をもとにした具体思考の連続作業

「言語理解」と「言語化」とはどういうことなのか。「クリエイティブの誤解~クリエイティブは左脳作業~」でも説明しているように、デザイン開発も具体思考の連続作業なのだ。決して、曖昧なことではなく、すべての物事に説明ができるような極めて論理的な作業なのである。この点が、ごっそり世の中の認識から抜け落ちているように感じる。著者が優秀と思うADは「言語理解」と「言語化」の能力が長けた人間であった。しかも、広告主が実行できないデザインという特殊技能も持ち合わせている。広告表現では、実はADは最強の存在なのだ。


きちんとしたADを見分ける方法

「言語理解」「言語化」を持ち合わせたADを見分けるにはどうしたら良いか。「広告の変わった商慣習「広告クリエイターの受賞歴とWORKS」」でも説明しているような「ハロー効果」に騙されてはいけない。それは、「市場も含めた広告対象物の状況と向かう先を徹底的に言語化してオリエンし、ブリーフすること」である。オリエンの要素についての詳細は「広告代理店が悩まないオリエンシートの構成要素」をご覧いただき、クリエイティブブリーフについての詳細は「クリエイティブ・ブリーフの未来を考える~クリエイティブ・リーディング~」をご覧いただきたい。広告クリエイティブは広告対象物のマーケティング活動の一環であり、その役割を明確に持っているのである。そして、このオリエンを受けた後の提案で「雰囲気」「気分」などの言語を使わずに、あくまでマーケティング戦略の視点に立ってどのように市場攻略するかの「説明」を聞くことで初めて良い「広告クリエイティブ開発パートナー」となるのである。広告主のオリエンが曖昧であっては元も子もなく、提案も「ビジュアルの見た目」で決めてしまっては良い「広告クリエイティブ開発パートナー」にはなりえないのである。


広告トータルプランニング会社」を設立した今でもお付き合いのあるADは、雰囲気でも、気分でもなく、きちんと「言語理解」をし、「言語化」して説明ができる。それが、優秀なADの要件であると著者は考えている。芸術家やアーティストであれば、自由にその思いをデザインしてもらって構わない。しかし、あくまで広告は広告対象物のマーケティング戦略の一環であり、売上を上げるためにあるのだ。パートナーとなって戦略設計通りに実行するためには、「言語理解」と「言語化」の能力がなければ、説明責任を果たせないのである。


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