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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

デジタル広告の効果が出ない時に必要なマーケティング視点への回帰

更新日:2023年3月22日

17年勤めた総合広告代理店時代、多くの広告主から「デジタル広告の効果が出なくなった」という相談を受けた。「CV数が下がっている」「CPAが高騰している」など、具体的な内容が多かったと感じている。社内のデジタル部門だけではなく、ネット系代理店と協業してビジネスを行っていたが、そういったデジタル専門家からは、本質的な課題解決が出てこなかったように感じている。広告全体については「「広告が効かない!?」と感じたときに立ち返るべき8つの視点」をご覧いただくとして、本稿では、デジタル広告の効果が出ない時の視点について説明していきたい。


目次:デジタル広告の効果が出ない時に必要なマーケティング視点への回帰


「CPA高騰」「CV数低下」へのでネット系代理店回答

総合広告代理店勤務時代、特にデジタル広告に力を入れている広告主から、「CPAが高騰してしまって大変だ」「CV数がみるみる下がっている」などといった相談を受けることが多かった。その際、協業しているネット系代理店や社内のデジタル部門スタッフからは、「戦術面」での解決方法しか出てこなかったと考えている。CVRの低下、品質スコアの低下、競合入札の激化、などが回答の代表格であった。しかし、著者からすると、それは「事象」でしかなく、マーケティング視点に立った時に「戦略面」での問題に立ち返ることがなかったのである。著者はいつも本質的な課題は事象のもっと根源的な部分にあると考えていた。


上位概念における「効果が出ない広告」の問題点

そもそも、なぜ「CPA高騰」や「CVR低下」が発生するのか、それぞれに相関する指標はあるが、重要なことは「それが読めていたかどうか」だけである。これには2つの視点が必要となる。1つ目は「プラットフォーマー動向」で、2つ目は「マーケティング視点」である。前者はあらゆるネット系代理店がプラットフォーマー動向を注視しており、対応自体は可能になる。しかしながら、後者については基本的なマーケティング視点がなければ解決には至らず、プラットフォーマー動向に左右されながら、常に対応し続けることになってしまうのである。


1つ目の問題点「プラットフォーマー動向」への対応

Googleの検索連動型広告、中でもリスティングを例に挙げて説明する。基本的には、リスティング広告は、すべてGoogleのアルゴリズムによって規定されている。どういうものが表示されやすく、どういう対処法があるかについては、ネットで調べればネット系代理店によるブログなどですぐにわかるし、キーワードプランナーを使えば検索ワードのボリュームも把握できる。しかし、これらにすべて対応していたとしてもGoogleがアルゴリズムの「コアアップデート」などを行ってしまった場合、ルール自体が変わってしまうのである。年に一回程度、例えば直近では2021年6月にもGoogleがコアアップデートを実施したが、その際にこれまでの法則性が瓦解してしまうことになるのだ。ただし、これらもさして大きな問題ではなく、いずれも、ネット系代理店のブログやセミナーなどで、事前情報や最新情報を把握できるので、すぐに対策を講じることができるのだ。最低限、この点への対応はしておかなければならないし、広告主でもすぐに行えることであろう。


重要な、2つ目の問題点「マーケティング視点なき運用」

「デジタル広告に対する広告主の悩み」に対応してきた著者としては「マーケティング視点なき運用」への問題提起の方が、根本解決に至ったと考えている。Googleのアルゴリズムに従って、さらにそのアルゴリズムを解釈しているネット系代理店に従って、きちんと成果を上げられる広告主は、結果的に「体力のある企業」だけだったと考えている。そうではない、「体力のない多くの広告主」はきちんと戦略をもって市場を定義し、自らの意志によって市場を創出またはシェアを拡大し、効率的にデジタル広告を実施しなければならない。誰が見ても変わらない「データ」というものを鵜吞みにしても、体力勝負の域を出ないのである。「共通で提供されるデータ」ではなく、意志を持ってどういう市場を創り、市場シェアを拡大するかの戦略を立案してから、デジタル広告運用へと進むべきだと著者は考えている。



例としてリスティングにマーケティング視点を注入

かねてよりマーケティングではSTPが用いられてきた。Segmentation、つまりは市場細分化の「S」、Targeting、つまりは市場の狙いどころの「T」、最後にPositioning、市場での立ち位置の「P」のSTPである。コトラーのマーケティング「4.0」においては、現在のマーケティングは「縦から横」に移行しつつあると説いており、マーケティングをSTPでは定義しきてれなくなっているとも述べているが、本稿の例示であるリスティングにおいてはまだまだ「縦」のマーケティングであるため、伴ってSTPを活用して説明していく。STPはデジタル運用においても極めて重要だと著者は考えている。基本的には縦軸と横軸によって市場を細分化し、自社のポジションを明確にしていくプロセスであるが、こうしたトラディショナルなマーケティングの作業なくして、運用型のデジタル広告で適した成果は出ないと著者は考えている。たとえば、低価格の男性用化粧品を例に挙げよう。縦軸は「男性用」「女性用」と上下にプロットする。さらに、横軸は「高価格」「低価格」と左右にプロットする。この場合、「低価格の男性用化粧品」は右上にポジションを獲ることになる。こうして例えばリスティングであれば「男性用 化粧品」「男性用 低価格 化粧品」などが購入するワードになる。ここまではどの企業でも対応しているかと思う。しかし、その市場の中にも競合ブランドは多数存在するのだ。この点が問題なのである。ちなみに、大企業であればすでにある軸ではない「新機軸の持ち込み」を行い、ポジショニングをシンプルに定義しようとするが、それは知名度が高く体力がある企業だけが広く世の中に「新機軸の提示」ができるため、本稿では新機軸の持ち込みではなく「既存軸の活用方法」を説明するのでご注意いただきたい。


「縦軸」「横軸」だけではポジショニングできない

ポジショニング内に競合ブランドが存在する場合、同じポジショニングでの競合優位性が「ラインナップ」「圧倒的な機能性」が優位性だとするならば、右上のポジショニングの中でも縦軸に「ラインナップ」「単品」と上下にプロットし、横軸に「情緒的」「機能的」と左右にプロットする。すると、この場合でも右上にポジションを獲っているため、リスティングでも「男性用 化粧品 機能的」や「男性用 低価格 化粧品 ラインナップ」などを入札する。確かに、ロングテール的なスモールワードが増えてしまうことはあるが、「確実にそれが欲しい人に広告を届けることができる」のである。(下図参照)



ポジショニングが明確になったことでのLPの在り方

こうして購入するワードについては明確になった。ここまで、決してGoogleの提供しているキーワードプランナーなどのデータは見ていない。この段階でキーワードプランナーを見て頂いても問題ないが、「ロングテールで調べている人はいない」として諦めてはいけない。統一的にデータ化できる検索ワードがキーワードプランナーに掲載されているだけであり、商品やサービス開発に至った際に「その受容性」を認識していたわけなので、キーワードプランナーを参考程度に見ておくことをおススメする。さて、次に、広告リンク先の受け皿となるLPを用意しなくてはならない。上記にあるポジショニングに従えば、記載すべき情報のセレクトはできている。そのうえで、今では有名になったPASONAの法則に従って情報を記載していけば良い。PASONAの法則とは、原則的なLPのフレームワークである。ターゲットの問題点、Problemをまずは冒頭におき、気持ちをぐらつかせる。次にAgitationを設置し、その解決方法、そしてSolutionを提示し、契約または発注まで具体化するNarrow downを行い、実際に契約または発注への後押しをするActionの流れを作るだけである。凡そ「うまくいく」LPの構造は上記のようになっているので、この点はあえて説明するまでもないだろう。本稿で重要なのは、先にきちんとしたポジショニングマップを作製してからデジタル運用広告を実施する重要性を説いているのである。


ポジショニングマップで初めて成り立つリスティング

これらは、市場創出または市場シェア拡大のためのプロセスであるため、「CPA高騰」や「CVR低下」はあまり重要ではない。さらに、CV数を上げるためだけにビッグワード入札ばかりを行い、CPAが高騰することもなくなる。それは市場における狙いと異なるためだ。無駄なワード購入を減らし、選び抜いたワードでだけ勝負することになり、結果的に勝ちやすい市場で勝つ確率を高めることにつながると著者は考えている。市場が定着し始めると、必ず競合も入札を強めてくることになるが、それは「広告に、プロダクト・ライフ・サイクルの視点を」でも説明しているように、「プロダクト・ライフ・サイクル」の定説なので、予め予想がつくし、事前に準備もできる。こうして、トラディショナルなマーケティングの視点を注入しながらデジタル広告運用を行うことで、持続的な成長を期待できるのである。


本稿ではリスティングに絞って説明したが、すべてのデジタル広告が「後追い」の施策となっていると著者は考えている。GoogleやSNS各社のようなプラットフォーマー動向を「後追い」し、CPAやCVRの変動も「後追い」し、対応することが一般化してしまっている。STPやプロダクト・ライフ・サイクルの視点を入れながら、「意志」と「未来予測」を主軸に置いたデジタル広告運用を目にする機会は、総合広告代理店勤務の18年間において、ほとんどなかった。しかしながら、広告代理店には「未来予測力」が培われる土壌がない。そのあたりは「先行投資が少ないことで養われない広告代理店の「未来予測力」」でも説明している。確かに、大手広告主のように体力がある企業はそれでも問題ないであろう。しかし、そうではない、体力のない企業にとっては、必ずこういったプロセスを踏む必要があると著者は考えている。ネット系代理店は、トラディショナルなマーケティングに明るくない。しかしながら、「SEOやリスティングが苦手な広告代理店」でも説明しているように、総合広告代理店はそもそもリスティングなどの運用型デジタル広告に明るくない。その両立が難しいことは重々承知している。しかし、「広告トータルプランニング会社」である当社を設立して、今やこうしてマーケティング視点のみで素人ながらにSEOを自ら回している行い著者からすると、広告主の悩みを解決する広告代理店の「本当の」デジタル広告運用スキルが求められていると考えている。

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