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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

広告ビジネスからPUSH型営業活動がなくなる日

更新日:2023年3月22日

今、営業活動はあらゆるビジネスで必須である。それは、広告代理店業においても同じである。市場縮小が加速している広告代理店においては、いかに大手であろうと「テレアポ」をしていると聞く。かつては、広告主から問い合わせがあることが当たり前であったが、大手広告主の「マス広告離れ」が加速したことで、これまでの広告主だけでは売上を確保することができず、スタートアップなどに対して「テレアポ」を行っている。当然、商談の場まで持ち込める確率は低く、決して効率的な活動ではないのだが、それしか「手」がないのだ。17年総合広告代理店に勤めた著者は、晩年にこの動きが加速していることを目の当たりにしていた。しかしながら、近い未来、広告ビジネスを含むビジネスの世界から営業活動がなくなる日も近づいていると著者は感じている。その理由について、本稿で説明していく。


目次:ビジネスからPUSH型営業活動がなくなる日


情報過多の時代における「認知獲得」

広告における認知神話の崩壊~販路至上主義へ~」でも説明しているように、今は「認知神話」が崩壊している。世の中の情報量は計測可能な域を出てしまい、ネットを含めた多くの情報が世の中にあふれている。しかしながら、人間の情報処理能力は限られているため、人は「自分が興味のある情報」にしか反応しなくなっている。しかも、興味がある情報については、自ら検索し、SNSであればフォローし、YOUTUBEであればチャンネル登録する。一度偶然にでも情報に接触したら、その情報に「今」興味があれば必ず検索行動に出ることが、一般化したのだ。PUSH型営業活動も、認知獲得の1つであるが、認知獲得というもの自体が非常に難しくなっているのだ。


PUSH型営業活動とは、まずは認知獲得

B2Bだけではなく、B2Cであっても、認知は絶対に必要なものだ。しかし、「今」興味がある情報以外反応しなくなっている昨今、興味がある人に確実に認知を取るようにしなければならない。こうして、Googleなどで検索時に表示されるリスティング広告をどの企業も実施するようになっている。このリスティングはまさにPUSH型の営業活動である。しかしながら、そのリスティング広告も入札が相次ぎ、高騰を続けている。こうして、この側面においてもリスティングというPUSH型営業活動が難しい状況に陥っているのである。



PRを活用したPUSH型営業活動も難しい時代に

自社の社名や商品名が認知されていなければ、まず社名や商品名で検索されることはない。必ず自社や商品が存在する市場名で検索することになる。逆に、メディアなどへの取り上げによって、社名が広く認知されることもある。それは、やはり広告ではなく広報活動の賜物となる。自社で広告を打つよりも、圧倒的にメディアから取り上げられる認知効果の方が高いのである。しかしながら、こうしたPR活動も今はメディアが分散してしまっているが故、効果的な施策ではない状況に陥っているのだ。つまり、PRを活用したPUSH型の営業活動も難易度を上げているのである。


クッキーレスもPUSH型営業活動に追い打ちをかける

ネット閲覧履歴に基づき個人に広告を出すターゲティング広告は、2022年4月の改正個人情報保護法が全面施行されることで、大きくその利用価値を下げる。これまでネット広告の約半分、日本市場で言うと1兆円とも言われていたこの手法に頼れなくなるのだ。Googleも23年にはサードパーティークッキーを制限し、アップルは21年4月からスマホ利用者の事前同意なくしてアプリ事業社が情報収集できないようになっている。つまり、消費者の「過去の興味」に立脚したバナーなどのPUSH型広告、本稿ではこちらも「PUSH型営業活動」と呼ぶが、そのPUSH型営業活動の有効性が著しく低下することになるのだ。こうして「過去の興味に基づいた」PUSH型営業活動は厳しい局面を迎えることになる。



「今の興味」への営業活動を妨げたコロナ

かつては、顧客に毎日出入りし、常に顧客の課題を聞き出し、即座に提案を行うPUSH型営業活動が最も効率的であった。著者が総合広告代理店に入社した2004年頃は、「いつでも誰でも」クライアントの休憩所などに出入りすることができ、クライアントと会話することができ、翌日には提案を行うことができた。クライアントの「今の興味」に物理的に接することができたのである。それが、まずは「入館証」などの発行がマストとなり、入館時にアポを必要とするようになっていく。しかしながら、一度入館してしまえば、休憩所などに居座ることもでき、そこまでのハードルではなかった。状況が一変したのは、コロナだ。まず、顧客が出社していない。用があればリモートで打ち合わせを依頼するため、立ち話から「今の興味」を聞き出すようなことはできなくなった。顧客も多くの「テレカン」が入っており、「単なるヒアリング」などに時間を割くことはできない。コロナが「今の興味」を引き出すタイミングを消してしまったのだ。そして、ワクチンは摂取しようとも、未だにコロナ収束の見通しは立っておらず、何よりもコロナが「ビジネススタイル」を変えてしまったため、容易には元の状態には戻らないと著者は考えている。つまり「今の興味」に接する機会がどんどん減っているのである。


PUSH型営業活動よりも、自社環境を整えることが先

ひと昔前までは、ベータ版でアップして、100%に近づけるというサイクルが主流になりつつあった。しかしながら、今そのサイクルを採用してしまうと、未熟なサイトをアップすることにつながり、ひいてはGoogleのアルゴリズムで低評価を付けられてしまい、SEO対策をその後に講じようとも、低評価のまま検索表示が上位に挙がってこない可能性もはらんでいる。こういったリスクを鑑みると、きちんと市場設定を行い、ポジショニングを明確にしたうえで、ターゲットの行動を観察し、自社サイトまでたどり着ける経路を作り上げることが先決になる。不良品ではなく、幾度もネガティブチェックを行った完成品として世の中にローンチしなくてはならないのだ。PUSH型営業活動よりも、自社環境を整える必要があるのである。


PUSH型営業活動より「今の興味に合う」商品組成ありき

これまで説明してきたように、やみくもにPUSH型営業活動を行い、いわゆるセールストークによって契約をもぎとり、その後はきちんとした対応をしないようなビジネスは自ずと淘汰されていく。それはリアルでもネットの世界でも同様である。PUSH型営業は、衰退産業で行いがちな営業スタイルではあるが、それでは今の時代は対応できないのである。PUSH型営業活動よりも、商品開発。PUSH型営業活動よりも、コンセプト開発。PUSH型営業活動よりも、人材育成なのだ。それさえしっかりとすれば、たとえ販路が少なかったとしても必ずビジネスはうまくいくと著者は考えている。とにかく「今の興味」に叶う商品やサービスを開発し、興味を持った時点でたどり着ける流れを整えること以外、今ビジネスで行うことはないのではないだろうか。


本稿で説明したことは、極めて暴論であろう。しかし、18年総合広告代理店で「営業」として働いてきた著者はこのことを痛感していた。よって、自らを「営業」ではなく、「コミュニケーションパートナー」と設定することで、「脱・営業」を志してきた。結果的に、一度も売り込みをすることなく紹介だけで案件を獲得してきた。こうして今は営業活動を一切行わない「広告トータルプランニング会社」を設立したが、今、時代はPUSH型営業は当然のこと、「脱・営業」になりつつあるのではないだろうか。

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