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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

広告も「持たざる者」が優位に

更新日:2023年3月23日

持ち物を増やすことに躍起になっていた時代はあった。それは「モノが足りていなかったから」である。モノを増やすことが優位に働く時代であった。しかし、著者は、今の時代だと「持たざる者」が優位に立つと考えている。かねてよりアップル社が自社で工場を持たないファブレス式でビジネスを展開していることは有名だが、広告業界においても、「持たざる物」がその強さを発揮しつつある。自社ECで直接商品を展開する事業社が急成長しているのも「店舗」といった「モノ」を持たないことによって成り立っている。総合広告代理店に17年勤めた著者も、広告代理店自体も「持たざる者」の方が優位になるのではと考えていた。この点について、本稿では説明していく。


目次:広告も「持たざる者」が優位に


メンタルの「持たない」とフィジカルの「持たない」

まず、「持たざる者」が今の時代にフィットすることは間違いない。端的にその理由を言うと、「変化が速すぎる」からだ。今の時代は、いかに「持ち続けず」に、その時その時必要なものを「借りる」または「一時的に持つ」ことでしか、持続的成長を期待できないと著者は考えている。この「持たない」ことについては、メンタルの「持たない」とフィジカルの「持たない」の双方が存在することをまずは前提にお伝えしたい。


フィジカルの「持たない」戦略

総合広告代理店勤務時代に、いくつもの成長事例に携わってきた著者は、「成長の方程式」に「引き算」を上げている。こちらについては「広告視点から見た成長するビジネスの方程式」でも説明している。それはいわゆるメンタルとして「持たない」を選んでいるという事になる。18年前に新卒として入社した総合広告代理店で、営業として某大手通信会社を担当した。通信会社はインフラとも呼ばれるが、彼らのビジネスはまさに「持たない」を徹底していた。ケータイ、いまではスマホだが、それらはすべて電機メーカーが作っていた。それを、通信会社が販売するだけである。つまり、通信会社は端末を「持っていない」のだ。さらに、保険サービスや知育サービス、数多のサービスがあるが、基本的には決して自社で「持たず」、業務提携などをして人材の交流も同時に行いながら、持続的な成長をし続けていた。通信会社の「持ち物」といえば、「通信」が思いつくかもしれないが、総務省が管轄する電波を一部割り当てしてもらっているため、これも「借り物」ではある。彼らの持ちものは「通信施設」だけであった。よって、彼らはビジネスのスピードが極めて速い。成長しそうだと思えば、その領域について「すでにそれを持っている人」と組んでビジネスを展開し、衰退すればすぐに撤退するのだ。よって、持ちものは「人」と「通信施設」だけであった。



メンタルの「持たない」戦略

フィジカルに「持たない」ビジネスが根底にあるとどうなるのか?著者が携わったビジネスのうち、成長した通信会社のビジネスはいくつもあったが、ご担当者は全員「引き算」が得意であった。やはり、「持たない」「捨てる」の癖がついているのだと感じた。その考え方は商品をシャープにし、プロモーションの訴求をシャープにした。一方、足し算ビジネスの典型はメーカーのようにも思える。しかし、様々な業種業態のメーカーと関わった経験からすると、その作っている商品などではなく、ご担当者が「引き算」のお上手な方もいらっしゃった。そして、引き算が得意な方がご担当されるビジネスは成長していた。そういった意味でも、やはりメンタルとして「持たない」をいかに当たり前にするかが、今求められるビジネスの第一歩なのではないだろうか。


広告代理店は、もともと「持たない」ビジネスであった

総合広告代理店は、「持たない」ことをビジネスの中心においてきた。媒体枠という人さまの商品を「代理販売」し、広告主の商品を世の中に伝えていた。そのままであれば、常に高利益率、低リスク商売であったろう。しかし、戦後になると、各種コンテンツを先行投資して押さえ、販売するようになる。コンテンツの代表格は、オリンピックやワールドカップなどのスポーツコンテンツである。また、アニメや漫画、映画などのように、制作委員会に名を連ね、先行投資を行ってその後の販促権を取得するものもある。こちらはフィジカルの「持ちもの」となっていくのである。


広告代理店の最大の持ちもの、それは「人」

利益率が高く安定していた総合広告代理店は毎年多くの新入社員を雇った。売り物も多くあり、売り先も多くあったためだ。高度経済成長期以降も、その採用人数に歯止めがかかることはなかった。気が付けば数千人の従業員を抱えていた。しかし、状況は一変する。「複雑化するプロモーション」や「広告代理店を取り巻く厳しい環境~競合参入篇①「TVメディア」~」などでも説明しているように、プロモーションの複雑化、インターネット広告の隆盛、ディスラプションプレイヤーの参入、市場停滞と、大きな組織を根底から覆す事態が立て続けに起こったのだ。その時、それらに対応する人員をさらに雇う必要が生じ、図体が大きく動きが遅いのに、さらに図体を大きくしようとする動きが加速する。この点は「広告代理店を取り巻く厳しい環境~人材・働き方篇~」もご覧いただきたい。こうして、総合広告代理店は「持つ者」の代表格へとのし上がっていくのである。


フィジカルの「持ちもの」が多いと、動きが遅い

これはあえて説明する必要もないが、36協定がこれだけ規制が強い中で、従業員に無理強いはさせられない。その中で、図体が大きくなり過ぎた企業は時代の変化についていけず、どんどん衰退していくことになる。日本を代表する大手家電メーカーが、海外のメーカーに、買収されたり事業譲渡をしたりすることが20年前、いや10年前ですら想像できたであろうか。それほど、「大きく」「持つ者」は脆い存在となっているのだ。しかも日本企業の場合は、なかなか解雇通告をすることができない。「持つ」ことを宿命づけられながらも、エッジのある視点は社内のどこかの部署を否定することにもなりかねないために、エッジの効いた視点を持つことも提示することもできない。こうして、徐々に体力を失い、衰退していくのである。



増える「足し算」思考の広告代理店

こうして図体が大きくなった総合広告代理店には、もう一つ増えてしまったものがある。それは「足し算」思考である。プロモーションが複雑化するにつれ、すべての要素を足すような思考へと変わっていく。つまり、広告主からするとポイントが多すぎてよくわからなくなってしまった。つまり、不安が「足し上げる」ことを助長していくことになったのだ。結果的に、あれもこれもの「足し算」思考をしてしまう従業員が増えることとなってしまう。メンタルも「持つ者」になっていっていると言っても過言ではない。


フィジカルもメンタルも「持つ者」となった広告代理店

知らぬ間に「持つ者」の代表格に変貌を遂げた総合広告代理店。コロナによって、先行投資していたにもかかわらず負債となってしまう確率が高まったスポーツコンテンツをはじめ、今後はどういう「持ちもの」を増やしていくのだろうか。実はフィジカルの「持ちもの」を減らすよりも、メンタルの「足し算思考」を変えていく方が難しいと著者は考えている。フィジカルとメンタル双方での「大改革」が必要なのだ。


著者はこう考えていたがために、独立して起業する際は、「人」も「モノ」も持たず、思考も「引き算」のままで独立しようと考えていた。よって、それぞれが極めてシンプルな状態にある「広告トータルプランニング会社」である当社を設立した。当社はフラットな視点で「相談に応える」ことに特化している。利害関係があるがために、広告代理店ではカウンセリングやセカンドオピニオンは実現できない。知見以外はすべて前の会社においてきたと言っても過言ではないだろう。なんせ、当社にはプリンターすらないのだから。

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