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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

広告代理店が「広告全領域の専門家」と思われない理由

更新日:2023年3月29日

専門家というと一般的には、資格専門職である士業を指すだろう。弁護士や税理士、社会保険労務士が専門家である。著者は17年にわたって総合代理店に勤めたが、広告代理店のことを、それらと同じ専門職として考えていた。唯一の違いは、資格がなくても成立する非資格専門職ということである。誰でも明日から広告代理店を名乗ることができることができるため、中々「広告代理店は非資格専門職」という考え方は浸透していないように思える。本稿では、非資格専門職たる広告代理店が、広告主から専門職、つまりは「プロ」と認識されづらい理由と、その問題点について説明していく。


目次:広告代理店が「広告全領域の専門家」と思われない理由


広告領域を一手に引き受ける「網羅的な」専門性

広告代理店は広告主の広告戦略及び戦術、実行を「本来は」一手に引き受けるべきである。著者も18年にわたって、広告主のプロモーション領域を一手に引き受けてきた。中には、新規事業のマーケティング立案担当や、ゲームアプリ開発という「変わった」業務もあったが、広告主が社内異動などを通じて、「その企業のプロ」になっていくのとは異なり、「プロモーション領域」だけを仕事にしてきた。それはつまり、広告代理店は「広告のプロ」という事である。確かに、TVCMの裏事情などは表に出てくることは極めて少なく、「独特な商慣習の「TV広告」との向き合い方」でも説明しているように、特殊な商慣習の中で、特異なつながりを持ちながら長くビジネスを行っている。こうした意味でも、広告代理店はプロモーション領域の「プロ」であり、その「専門性という知見」を広告主は購入しているのである。



領域が広がりすぎることで薄まる専門性

複雑化するプロモーション」でも説明しているように、今や、プロモーションは8類型となり、複雑を極めている。そのために、すべてのプロモーション領域の専門性を有することはとても難しい。しかしながら、広告主にとっては「プロ」であるということは間違いなく、専門分野における知見があるだろうと認識されてしまうのである。しかも、広告主と折衝を繰り返すフロントの営業は、広告主からすればすべてのプロモーション領域におけるプロとみなされる。たとえ、本来はスタッフに聞かないとわからないことであっても、だ。その領域の広さが広告代理店の専門性への期待値を下げつつあるのだ。


広告代理店だって、列記としたサラリーマン

複雑化している中でも「勉強」を続ければ必然的に「広告の専門家」と呼ばれるはずであるが、そうさせない最大の要因は、彼らも列記としたサラリーマンであるという事である。「石の上に3年」や「プロになるための1万時間」など、プロとして必要な期間を提言する書籍や論文などは多数存在するが、それよりも前に会社としての総合力を上げるための部署異動というものがついて回るのである。この部署異動が、一つの広告主や一つのビジネスに対してスキルを習得するための適切な期間を与えることを許さず、常に異動し続け、各分野の「セミプロ」を生み出す要因となっている。さらに、個人として広告主に対して適切なこと、例えば自社ではなく他社を推奨する、あるいは検討していた広告を実施すべきではないと説こうものなら、「会社に損害を与えた」として会社から罰せられることとなる。こうして、広告主に対して「本当に正しい提案や提言」ができなくなっているのである。この「列記としたサラリーマン」であるという点が、広告代理店を「広告の専門家」とさせない最大の理由であると著者は考えている。


「広告の専門家」としての勉強時間が極めて短い

サラリーマンであるというそもそも構造問題の次に、「時間」の問題がある。かつては、例えばコトラーの最新刊が出れば広告代理店勤務者はきちんと読んで勉強していることもあった。ただし、その多くは勤務時間内で行われることが多く、その読書時間も含めて勤務時間申請していた。しかしながら、36協定によって勤務時間が厳しく規制されるようになると、当たり前のように個々人が勉強していた時間が持てなくなってしまったのだ。あくまで勉強は自助努力の領域となり、勤務時間外であればマネージメントも強く勉強を強制することもできない。こうして、最新のマーケティング理論などを勉強する時間すらなくなっていってしまったのである。こうして、また一つ「広告の専門家」と呼ばれない理由ができてしまったのだ。


プロ意識自体が希薄化している広告代理店勤務者の意識

広告主からのプロとしての期待値が薄まることで、広告代理店に勤務する人間も、自らを「広告の専門家」として意識することが減っているように著者は感じている。オウンドメディアやリスティング、SEOなどは広告主の方に知見があることが増えたことがその最大の理由であろう。伴って、若手社員を中心に、「プロ意識」がどんどん希薄化しているのではないだろうか。しかも、「広告代理店を取り巻く厳しい環境~人材・働き方篇~」でも説明しているように、未経験中途入社が増えることで、たとえ年齢は重ねていたとしても、実質的には「セミプロ」が増えてしまっているのである。これが、非資格専門職たる広告代理店のプロ意識なのである。


弁護士と同じように広告代理店が依頼される世の中に

経済活動に不可欠なプロモーション。その必須領域におけるプロが不要なわけがあるまい。広告代理店は必須である。しかしながら、弁護士のように、専門家として依頼されるような状況に、今の広告代理店はなれていない。あるべき広告取引は、広告主も「プロ」として広告代理店に業務を依頼し、広告代理店側も「プロ」として対応することなのである。その際に必要となるのは、「広告全体戦略に必要なデジタル、オフライン、マーケ、ブランド知見」なのである。



広告代理店には、確かに資格は必要ない。しかしながら、その専門性の高さは、資格職にも匹敵する知見の広さと深さを要求すると著者は考えている。こうして、18年勤めた総合広告代理店を辞め、「広告の専門家」として広告主の悩みに対応できるように、著者は「広告トータルプランニング会社」である当社を設立した。まだ当社も具体化できてはいないが、資格試験はなくとも、「試験のようなもの」を合格した者こそ、「広告代理店」と名乗ることができる日本の方が、経済活動に欠かせないプロモーション領域においては本来は必要だと、著者は感じている。

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