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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

タレントが広告にもたらすメリットとリスク

更新日:2023年10月30日

総合広告代理店の専売品であったような印象のあるタレント提案。著者も、17年にわたる総合広告代理店勤務時代は50名以上の「著名人」をアサインしてきました。そして「広告トータルプランニング会社」である当社を設立した今も、仕事柄多くの「著名人」をクライアントに提案し、共に仕事をしています。


広義にキャスティングと捉えると「インフルエンサーアサイン会社」や「アスリートキャスティング会社」、学者等の「有識者キャスティング会社」と、多くのプレイヤーが存在し、自社でタレントを契約して広告主に「貸し出す」ビジネスモデルも増えています。そして、キャスティング会社や広告代理店でけではなく、PR会社なども広告物にタレントをアサインすることが増えてきています。


契約タレントの、広告契約締結期間中における不倫などによる違約金の発生などはかねてよりあったものの、昨今のジャニーズ事務所の性加害問題によって、さらに、「タレントが広告にもたらすメリット」よりも「リスク」の方が大きく取り上げられているのではないかと思います。


数多くのタレント、そして著名人のキャスティングに携わってきた著者としては、曖昧な目的設定でタレントキャスティングをするとその広告施策は失敗すると断言できます。その理由について、本稿でメリットとリスクに分けてご説明していきます。


目次:タレントが広告にもたらすのメリットとリスク


タレントキャスティングの目的はたった3つだけ

商品やサービスで広告を実施する際に、人は「見たことにあるもの」に反応するようになっています。さらに「見たことがある人」「好意的に思っている人」にも強く反応します。そういった意味では広告でのタレント起用は意味があるように思えてしまいます。しかし、それだけでは、広告物への注目度が上がるだけであり、商品やサービスが売れることとは無関係になってしまいます。ましてや、契約タレントが不祥事を起こしたり、すると逆効果にもなりかねません。お菓子や飲料のように国民のほとんどが口にしたことのある嗜好品であれば、知名度や好意度が高いタレントキャスティングでも機能することはありますが、その他多くの広告においてタレントを起用する場合は、キャスティングの目的は3つしかないと考えています。


1つ目の目的、「憧れ」

1つ目はその広告対象物のターゲットにとって「憧れ」となりうる場合です。いわゆる「ハロー効果」を得ることが目的なのです。化粧品メーカーの起用タレントが「国民的女優」などであったりするのは、この効果を狙ったものです。人間には「自己実現欲求」や「承認欲求」があり、「こうなりたい」「ああなりたい」という自己実現欲求が人を行動に移させる力は他の欲求に比べて非常に強いです。


次に「こういう自分を認めてほしい」という承認欲求も強いものです。SNSで自らの意見を述べたり写真を多く載せるような人が多いのは、この承認欲求に突き動かされていると言われています。こういった「自己実現欲求」や「承認欲求」に作用するのがハロー効果となります。このハロー効果を「人」によってもたらすため「憧れのタレントを広告に出演させる」手法を採用します。


2つ目の目的、「信頼の証」

目的の2つ目は、広告対象物に対する「信頼の証」となる場合です。これはブランドの「保証効果」となります。機能性の商材は必ずその機能に対する「保証効果」が必要となるため、その道の「ツウ」をアサインすることになります。特に白髪染めやAGA、疲労回復などは、それらの「機能」がきちんと効果があるように認識してもらうため、「シンボルユーザー」を立てることがあります。この際、キャスティングのポイントは「その機能を最も欲していて、その機能によって最も効果を得られた人としてわかりやすい人」となる。機能性の商品はまず「シンボルユーザー」、つまりは「信頼の証」「保証効果」を得られる人は誰なのかを検討することから始まります。


3つ目の目的、「ブランドへの共感」

3つ目の目的は「ブランドへの共感」を目的にするものです。ターゲットにとって遠すぎる存在ではなく、自分でも手が届く存在として広告対象物を位置付けたい場合に、こういったキャスティングを行います。日用品ブランドのTVCMにお笑い芸人が数多く出演するのは、これが理由です。特に、導入期を終え、成長期に向かう際、「他人事」だった商品を「自分事」しなくてはならないので、「共感しやすい人」をキャスティングすべきとなります。


3つの目的以外のタレントキャスティングは無駄

正直に言うと、上記3つ以外ののタレントキャスティングを行ってしまったことは、著者にもあります。しかし、広告主の皆様には大変申し訳ないことに、上記3つ以外の目的に即してキャスティングしたタレントの効果によって、広告対象物が売れることはありませんでした。「話題のために」「人気を借りる」「知名度を借りる」こういった目的では「絶対に」キャスティングは奏功しないと断言できます。これまで50人以上の著名人をキャスティングしてきたからこそ、そう著者は考えています。



2大リスクは「商品の本質価値低下」と「炎上」

次に、広告タレントキャスティングのリスクについて言及します。一番大きなリスクは、商品ブランドやサービスブランドの「本質価値」よりも、起用タレントという「付加価値」の方が、ブランドの提供価値になりかねないことです。


知名度や好意度をタレントから借りてしまうがゆえに、CMは印象に残っていても、商品やサービスのことが印象に残らないケースがあります。当然、売り場に足を運ぶことはなく、商品やサービスの売上に貢献することはありません。特に、導入期の商品やサービスは、広告タレントキャスティングに気を付けなければなりません。


次に、広告タレントの不祥事などによる「炎上」リスクである。まさに、ジャニーズ事務所の性加害問題がこの点です。著者も、多くのタレントキャスティングを行ってきたが、数々の不祥事による炎上によって頭を悩ませてきました。タレントの知名度が急に下がることは少ないのですが、好意度が急落することはままあります。キャスティング時には「炎上」など予想できないため、青天の霹靂で襲い掛かってくることとなります。タレントとは契約を結んでいるため、不祥事の際には契約に則って様々な協議をすることになりますが、たとえタレントに非があったとしても、タレント事務所は「好意度は下がっていない」として反論することもしばしばです。



広告タレントキャスティングに対して、様々なプレイヤーが提案することが増えているため、本当にタレントキャスティングが必要なのか、必要な目的が3つの中にあるか、ご一考いただければと思います。また、それらの目的をかなえたとしても、リスクがあることも同時に踏まえておかなければならないこととなります。

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