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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

初めてのTVCMで陥りがちな「罠」

更新日:2023年3月23日

ビジネスを始めて、最初の広告施策としてTVCMを検討する方はいないだろう。高額で、投資対効果が不明瞭な広告施策の最たる例がTVCMであるはずだ。しかしながら、デジタル広告を継続的に行ってきたが効果が見えず、TVCMの方が効率的ではないかと検討し始める広告主は多くいらっしゃる。最近では、そういった企業を対象に低額から始められる「運用型TVCM」も増えてきた。著者は総合広告代理店勤務の17年間で、番組提供なのかスポットなのかにもよるが、一日たりともTVCMと縁を切ることはなかった。総額100億円以上の、大切な広告主のTVCM予算を預かり、無駄なく適切にプランニングしOAしてきている。大手広告主は登園のこと、初めてTVCMを流すこととなった広告主も数多く経験した。本稿では、その知見を踏まえながら、初めてTVCMを実施するときに陥りがちな「罠」について説明していく。


目次:初めてのTVCMで陥りがちな「罠」


TVCMを実施する前に必ず行っておくこと

TVCMの実施を検討する際、「本当にその目的はTVCMでしかかなえられないのか」、について何度も何度も推敲を重ねて頂きたい。なぜなら、TVCMの性質上、広告投資額が他の広告施策と比べて高額から検討開始するにも関わらず、その企業にとってはいかに高額な出費だとしても、大手広告主が戦いを繰り広げる、大企業が圧倒的に有利な体力勝負の市場なのである。一つのブランドで数十億円もTVCMに広告投資することはざらにある。そういった中で、「人の記憶に残す」ことを目的にTVCMを行うことは、相当なニッチ戦略をとらざるを得ない。ニッチにするということは、期待していたようなサイトアクセスや商品購入に至らない可能性が高くなるのだ。体力がモノを言うTVCM市場においては、広告主は決して期待値を高くし過ぎず、適正な反応値を予想しておくことが重要なのでである。



今、ブランドは「成長期」にあるのか

TVCMが期待に沿うには、広告対象物であるブランドが、プロダクト・ライフ・サイクルで言う「成長期」であることが必須である。「成長期」は、新規顧客を増やす間口拡大の時期ではあるが、イノベーター理論で言うところの、アーリーアダプターと言われるマジョリティーになる前のある程度情報感度が高い層に対して、ブランドを売り込むことになる。この「成長期」に、これまでデジタルで精緻にセグメントしてきたターゲットを中心としつつも、「期せずして」他のターゲットにも広告がリーチすることになる。たとえ、デジタル広告で踊り場を迎えていたとしても、大きく見た時に「成長期」であれば問題ない。しかし、「導入期」や「成熟期」「衰退期」のTVCMは奏功しないと考えて間違いない。「導入期」のターゲットは情報感度の極めて高い「イノベーター」となるが、数が少ないため、明確にターゲットをセグメントしてリーチできるデジタルの方が、圧倒的に相性が良い。IPO前などで自社の認知率を「先行投資的」に高めようとする場合に、「導入期」でTVCMを実施することもあるが、それは実利をベースとした経済活動ではない。「成熟期」以降は、新規顧客を獲得するのではなく既存顧客へのCRMを中心に売り上げをキープする、いわゆる奥行深化を最重要ポイントとして掲げるべきで、TVCMよりも別の方法をとるべきである。


TVCMの流れを理解しているのか

いざ、TVCMを流そうと思っても、すぐにTVCMが流せるわけではない。まず、CM制作がある。そして、番組提供かスポットかに関わらず、「考査」というものが、TV局には存在する。この「考査」をプロセスとして忘れてしまいがちになる。「考査」には2つあって、初めてTVCMを流すときは、「業態考査」と呼ばれる広告主自体へのチェックと、「素材考査」と呼ばれるCM素材に対するチェックが発生する。ここを突破できなければTVCMを流すことができない。会社の信用情報等も含めて、すべての項目を「業態審査」では確認され、法的見地に基づいて「素材考査」は行われる。たとえば、CM撮影の前にコンテ段階で「素材考査」を通していなかったら、素材が出来上がったとしても「考査NG」となり、再撮影となることも視野に入れなくてはならないのだ。


TV局選定の際に、引っかかってはいけない「罠」

どのTV局でCMを流すのかについて、TVスポットについては、各TV局から見積もりを取得する形で、発注するTV局を決めていく。初めてとなるTVCMの場合、過去実績がわからず、広告代理店が提示する「ターゲットコスト(TARP)」と呼ばれる、ターゲット含有率の高さと、人気枠の多さで選定することとなるだろう。一つのCM枠におけるターゲットの含有率は、主にはデモグラと呼ばれる性年代でしか表すことができない。しかし、今の消費行動は「意識」の方が重要である。また、購入者データを突合させてTVプランを練ることもあるが、実はデモグラによってプランした時とさほど差がないことにも気を付けなくてはならない。また、いくら人気枠、つまりは人気の番組を多数保有しているとしても、初めてのCM出稿でそこまで高額な発注でないのであれば、まず人気枠にCMが流れる可能性は低いと考えて頂いて間違いない。番組提供においても、その番組が人気枠である場合は、当然のように大手広告主が優先されるため、新規で番組提供をしたい場合は、通常料金よりも相当割高になる可能性を踏まえなくてはならない。スポットなのか番組提供なのかによるが、それぞれ注意が必要なのである。



誤解しがちな「運用」という言葉

TVCMは「限界産業」である。運用型のデジタル広告では「広告枠が取れない」ということはあまりないが、TVCMは往々にして「枠が取れない」ことがある。TVCMについても、「運用型」が出始めてきたが、デジタルと同様の運用ができないことは肝に銘じておく必要がある。確かに、サイトアクセスやコンバージョンに導いたであろうCM枠は把握できる可能性はある。しかし、TVCMに接触してどれくらいでサイトアクセスがあったのかを定義するのは、「人」である。広告主の業態にもよるが、TVCMがOAされてから24時間以内なのか2時間以内なのかは恣意的に決められるのだ。コンビニなどで売られる商品についても、それが季節要因なのか、TVCM以外の要因も想定できる。TVCMがOA開始となったその時、その瞬間に売上の反応がどれほどあるかについては「TVCM自体の効果」を把握できることにはなるが、「どの枠」まで特定するのは他の要因が多く絡んでしまっているがために、TVCMの貢献と断定するのは難しいのである。番組提供などはOAが週に一度のためにTVCMの効果測定はしやすい。しかしながら、売上反応があったと認定できる番組は、誰が見てもその枠は影響力があると想像できるものである。人気枠と言われていなくても、反応が良い番組もあるにはあるが、それ以上に「人気テレビ番組」の方が力があるのが実態だ。しかし、誰もがわかっているものの、そのポジションにCMを流せない。理由は簡単で、どの広告主もその枠を狙うからである。この点がデジタルとの大きな違いである。影響力の高い番組は想像に難くない。しかし、大手ではないため流せない。それが実態なのだ。


好意的な視聴者だけではないため、クレームも

新規出稿となると、少ない出稿量でTVCMを視聴者の記憶に残そうとするあまり、エッジのきいたCM内容となるケースが多い。しかし、この点も注意が必要だ。世の中にはあらゆる考え方の人がいる。TVCMの中で、こちらが意図しない部分に反応して、TV局にクレームを入れる視聴者や消費者団体が存在する。TVは総務省から電波の割り当てを受けた極めて公共性の高い、免許産業である。それがために、たとえ考査を突破したTVCMであっても思いもしない方向からクレームの電話などがTV局には寄せられる。時には広告主へ問い合わせが来ることもあるが、TV局に対して「なぜこんなCMを流しているのだ」というTV局のスタンスに対するクレームがほとんどである。ここで問題なのは、「TV局は消費者や消費者団体からクレームが入るとTV局の判断で広告主のCMを勝手に差し止めてしまう」点にある。さらに問題なのは、「だからといって広告主に返金しないことがほとんど」という事である。エッジの効いたCMで何とか素材考査を突破しても、TV局は勝手にOAを中止する権限を持っていることを頭に入れておかなければならない。


オンエアされた後の視聴率が想定よりも下がってしまう

なんとかOAにこぎつけても、特にスポットは想定していた視聴率よりも低くなってしまうことも多々ある。OA後の視聴率報告のことは、アクチュアルと呼ばれている。アクチュアルが下がることは定常的なことであるのだが、初めてTVCMを出稿する広告主にとっては驚くことであろう。それで返金があるかというと返金がないビジネス慣習である。OA後に視聴率を聞いて、買い付け時よりも低い可能性を踏まえ、あらかじめ広告代理店にアクチュアルに対する提案を織り込むように伝えておくことをおススメする。


ここまで初めてのTVCMで陥りがちな「罠」について説明してきたが、これでもまだ一部の「罠」でしかない。総合広告代理店などにあらかじめ問い合わせを行い、きちんとリスク情報をすべて開示してもらってから、実施を検討していただきたい。当然「広告トータルプランニング会社」である当社ではこういったリスク情報を伝えることこそが本分ではあるが、広告代理店がすべてのリスク情報をあらかじめ伝えないことも多い。この点は、今後TVCMを初めて検討する広告主が増えることを想定すると、解決すべき問題点だと考えている。



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