同じ映像ということもあり、「これは映画ではないのか?」と思ってしまうようなTVCMも多く存在していると思う。また、TVドラマのようなTVCMも存在する。映像制作の工程については大きな違いはなくとも、TVCMと、映画やドラマは全く違うのである。17年の総合広告代理店勤務時代、著者は明確にこの違いの線引きを行いながら、数多くTVCMという映像制作に携わってきたが、社内外問わず線引きが不明確だと感じることが多々あった。この点について、本稿では説明していく。
目次:これでCMの悩みがゼロに!?CMとドラマと映画の、「制作方法」の違い
TVCMと、ドラマや映画との違いを、目的設定から考える
TVCMは、あくまで商品やサービスの購入や契約のために存在する。曖昧な表現で、「関係づくりを行う」などと話すクリエイターや企画書を多く見てきたが、どのように関係がつくられたかを把握する術がない以上、TVCMによって明確に「関係づくり」がなされたと言えるものは少なくともここ数年では思いつかないだろう。また、「ファンマーケティング」なども声高に叫ばれるようになってはいるが、ファンマーケティングをTVCMによって行おうとすると、確かに「TVCMの熱烈なファン」にはなってくれるかもしれないが、残念ながらそれは商品の売上とは無関係である。「関係づくり」や「ファンマーケティング」は主として商品や、せめて公式SNSやブランドサイトなどのオウンドメディアで行われるべきで、「関係づくり」や「ファンマーケティング」をTVCMに持ち込むのは危険だと著者は考えている。短期的であるか、中長期的であるかは別として、TVCMは広告対象物の売上に貢献することが目的なのである。比して、ドラマはどうであろうか?ドラマは視聴率獲得が目的である。そのために、継続して視聴してもらう必要があり、さらに多くの人に見てもらう話題作りが必要なのである。また、映画については動員こそが目的であり、事前の話題獲得が重要だ。売上の獲得が必要なものがTVCM、話題の獲得が必要なのがドラマや映画、と整理できるのである。
TVCMは1メッセージ、ドラマや映画は起承転結
人は多くのことを覚えていられない。「広告代理店の忘れ物「人は忘れる生き物」」でも説明したように、認知というものを商売のベースにしている広告代理店が、つい忘れてしまいがちなことであるが、人は20分で4割のことを忘れてしまう。覚えていたのに、である。これを「エビングハウスの忘却曲線」と呼んでいる。また、「覚えてもらう」にも、TVCMなどは3ヒッツ理論、つまり最低でもTVCMに3回は接触しないと覚えてもらえすらしないと言われている。よって、言いたい事は「たった一つ」でなければ非効率になってしまう。稀に、言いたいことではない部分が覚えられてしまうこともあるが、市場を動かせるメッセージは1つであるべきだ。かつて、東進ハイスクールのCMで、一講師として出演し「いつやるの?今でしょ!」でお馴染みとなった林先生はその典型である。あのTVCMで東進ハイスクールが伝えたかったメッセージを覚えている方は少ないだろう。さて、ドラマや映画は「見続けてもらう」「話題にする」ことが目的であるため、ストーリーの面白さ、つまりは「起承転結」が最重要になる。映像作家がTVCMの演出に加わるとすぐに「起承転結」を作りたがるのはこのせいである。TVCMと、ドラマや映画との重視する点について差分を理解していないことになる。
TVCMと、ドラマや映画との最大の違いは「尺」
TVCMの尺は15秒または30秒である。TVCMを長く担当してくると、この15秒に何を盛り込むかについて只管議論することになる。余談にはなるが、SNSを中心とした動画クリエイター達が、TVCM制作を担当しても中々商品の売上という結果が出ないのは、尺の意識が乏しく、15秒の世界における「引き算」ができないためではないかと考えている。いわゆる「引きのあるシーン」を詰め込んでしまうのだ。さて、ドラマや映画はどうであろうか。ドラマは、1話につき45分ほどだとして12話までで凡そ10時間の映像制作となる。結果的に、セリフ一つ一つについてはTVCMと比べたら吟味は少なくなる。また、映画についても平均は2時間強となる。15秒でどう商品やサービスを売り上げるかについて吟味に吟味を重ねるTVCMとは全く異なる。こちらも、ドラマよりは「引き算」を行うが、TVCMほどの「引き算」は行われないのである。あくまで「ストーリー」が優先なのだ。
ここまで説明したように、TVCMと、ドラマや映画は全く異なる。しかしながら、著者が本稿を公開しようと思うほどに、まるでドラマのようなTVCMを作りたがったり、映画のようなTVCMを作りたがるクリエイターは存在する。「広告トータルプランニング会社」である当社では、そういったクリエイターと仕事をおススメしないようにしているが、中にはそういったクリエイターと仕事をしてしまう広告主や広告代理店営業も多くいるだろう。その都度、他の映像制作物とTVCMとの違いを認識しながら、そういったクリエイターと接することをおススメしたい。その違いを強く意識したうえで市場戦略設計をしっかり行い、「初めてのTVCMで陥りがちな「罠」」きちんとリスクを把握したうえでのTVCM制作を心がけて頂ければと思う。
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