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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

広告における認知神話の崩壊~販路至上主義へ~

更新日:2023年3月23日

総合広告代理店に入社してから、「認知」の重要性を叩き込まれ続けた17年であった。しかし、叩き込まれはしたものの、著者は常にどこかで懐疑的な印象を持っていた。なぜなら、自らが、知っていて、イメージもよく、それでも買わないものが多かったからだ。購入意向及び購入という経済活動で最も重要なことと、「認知」には大きな乖離があったように思っていたのだ。それが、最近の経済活動においては如実となってきているため、本稿で説明していく。


目次:広告における認知神話の崩壊~販路至上主義へ~


「認知神話」が生まれた理由

高度経済成長期には、「限られたマスメディア」から与えられた情報をもとに、「限られた購入接点」で、生活者は購買行動を起こしていた。特に「限られたマスメディア」の存在が情報の画一性を生み、人は、他の人と同じものを買うことをある種強制されていた。そして、生活者も、特段その点に疑問を持たずに、さらに人と違うモノを志向せず、人と同じモノを購入していた。このころ、総合広告代理店と、大手広告主の宣伝部もそれに呼応する形で、「認知こそ最強の購買促進要素」として位置づけ、プロモーション活動をけん引していくことになる。こうして、「認知神話」が完成するのである。


雑誌、ネットの登場で、分散メディアの時代に

新聞やラジオ、TVが主たるメディアであった時代に、次第に女性を中心に雑誌がそのメディアパワーを発揮し始める。いわゆる、セグメントメディアの登場である。人とは違う、自分に合うメディアを生活者は望むようになり、ファッション誌などを中心に、メディアが分散化され始める。そして、1990年代後半に、ネットが一般化し始めると、さらにセグメントされたWebメディアが数多登場し、分散化が加速することになっていく。しかしながら、この頃はまだ、「認知」自体は重要で、「どのようにすべてのメディアを組み合わせて認知させるか」にテーマが移行しただけであった。



コンビニ経済圏完成と、「買い物すべてAmazon化」

1985年頃に約6,000店舗であったセブンイレブンをはじめとするコンビニエンスストアは、たった30年程でその規模を10倍にまで増やし、現在は約60,000店舗も存在する。こうなったことが、購買行動自体を変えてしまったと著者は考えている。かつても、何かを買うつもりなく近所のスーパーマーケットに行き、そこで献立を考えながらお買い物をする主婦はいた。しかしそれ以外の、たとえば会社員などは、商品を主に新聞広告やTVCMで知り、週末または平日の通勤時に買い物をしていた。つまり、主婦以外は「認知して、買うことを決めて、店舗に行く」という購買行動であったのだ。しかし、コンビニが一般化したことで、飲料や食品、お菓子や、日用品に至るまで、コンビニで買うことができるようになった。つまり、コンビニに行けば日常的に必要なものはほとんど揃うようになってしまったのだ。これが購買行動自体を変えてしまうことになる。認知してからモノを買うという習慣から、コンビニに立ち寄ってから買うものを決める、という流れに代わってしまっている人が多いということである。平日は、仕事からの帰り道でお決まりのコンビニによる。そこで、なんとなく食べたいものや飲みたいものなどの、「買いたいモノのカテゴリー」に足を運び、そこで目に留まったものを買う購買行動が増えたのである。こうして、認知よりも、購入接点が先に立つような購買行動へと変遷していく。



モノを買おうと思った人の49%がまずAmazonを開く

ネット通販という言葉ですら違和感を覚えるほど、楽天やAmazonなどでモノを購入する文化が2005年くらいから加速していく。楽天の登場と、その後のAmazonの加速度的な成長によって、もはやネットでモノを買うことは当たり前すぎるほど当たり前になった。調査会社のニールセンが2019年に調査したところ、今では49%の人が、モノを買う時にまずAmazonを開くという。「モノを買いたい」と思ったら、楽天なりAmazonなりで購入するようになっているのだ。「ではAmazonで調べる前に商品を認知させれば良いのでは?」と思うかもしれないが、Amazonで商品を売っていなければその時点で競合ブランドに奪われてしまう。AmazonをはじめとしたD2C、自社ECで直接顧客と接点を持つブランドは、えてして1000円以上の高額商品が適すると言われているが、認知よりもまずフェース確保に投資をすべきである。また、1000円以下の場合は、先のコンビニやスーパーが主流となっているため、そちらも同じくフェース確保が最優先なのである。


今は「販路最強」ということを認識すること

コンビニに、Amazon。経済活動の販路が大きく力を持つ中で、プロモーションはどうあるべきか。答えはシンプルで、販路から購買行動モデルを把握し、適切な認知施策を構築することである。決して、認知から思考のプロセスを開始してはならない。総合広告代理店はどうしても広告対象物をどう言うか、もっと言うと、どううまいこと言うか、から考え始める。しかし、認知神話が崩壊している中、まずは販路から考えて、その時にどういうフェースまたは検索結果になるのか、つまり、競合ブランドは何なのかを意識したうえで、認知施策を構築しなくてはならない。当社ではこの業種業態ごとの購買行動の違いを「Comm. BUY

TYPE」でフレームワーク化している。


販路から考えることが苦手な総合広告代理店

総合広告代理店は、この「販路から考える」がとにかく苦手である。モノがどう売れるかを考えることなく、CM好感度を高め、広告対象物の認知率を高めることばかり考えてしまうからである。また、ネット系代理店も、CTR、CPCなどの指標に応じた効率論は得意だが、販路はリンク先URL程度しか考えていないことが多いのも事実である。「認知」で長年商売をしてきたわけなので、当然といえば当然ではあるが、それにしても目を向け無さ過ぎではないだろうか。


今は、「認知神話」は崩壊し、「販路最強」にあると著者は考えている。著者は総合広告代理店に勤務しながらも、認知に依存したサービス・ソリューション提案を行ってこなかったが、総合広告代理店勤務者は認知に依存した提案を行っていることが多い。「広告代理店の忘れ物「人は忘れる生き物」」でも記載したが、そもそも「認知」に依存すること自体が非常に険しい道のりを歩むことになるのである。経済活動における生活者の購買行動が明らかに変わっている中で、今後のプロモーション提案におけるポイントも変容してくるのではないだろうか。「広告トータルプランニング会社」である当社では、当然のことではあるが、「認知」の解釈をしながらカウンセリングサービスを提供している。


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