ブレストが不要なビジネスは皆無であろう。中には経営層が社内なのか外部を含めてなのかでブレストを行い、トップダウン的に全社に指示を出すこともあるが、社内のどこかではブレストが行われている。しかしながら、著者が総合広告代理店に入社した2004年と比べて、ブレストの機会が大幅に減っていると感じている。その理由は「つまらなくなった総合広告代理店業務」をご覧いただきたい。結論から言うと、ブレストは今後も大事であり続けると著者は考えている。ブレストのハウツー本や記事などは数多あるが、著者からすると極めて大切な要素が抜けているものが多いため、主にその点について本稿で説明していく。
目次:広告アイデア出しのための「ブレスト」にもっとも必要なこと
ブレストにはいくつものパターンがある
著者も数々のブレストを経験してきた。クライアントのVISION/MISSION/VALUEを提案する場合にも、クリエイティブを提案する場合にも、新規事業や新商品を提案する場合にも、常にブレストを重ねてきた。重要なことは2つで、それぞれでブレストの方法が異なるという事と、しかしながら通底する要素は同じという事である。それにしても、付箋やホワイトボード、書記の設定や時間の設定、否定をしない、などツールの必要性や参加者ルールなどは数多あるが、通底することが記載されていない内容が巷にあふれているのはなぜなのだろうか。
ブレストには、大きく2つの目的がある
ブレストは、大きく2つの目的がある。一つ目は「方針を決めること」。もう一つは「アイデアをうみだすこと」。一つ目の「方針を決めること」を実施する理由については、役職や職種による違いはあるが、社内が「バラバラ」になっている、ということがあげられる。これらを整理するためだけであればブレストは必要ではない。「バラバラ」が起こってしまう要因は二つであることが多く、まずメンバー各々が言語化できていない不文律の情報が多いことと、次に過去~現在~未来との時系列でズレが起こってしまう事である。そして、ブレストを実施する二つ目の「アイデアをうみだす」ことが必要になる理由については、「未来へのアイデア」が必要であるとは認識していつつも、目の前の業務に忙殺され、日常的には未来へのアイデア開発を行えていないことにある。
通底する要素は「カード」
「方針を決めること」と「アイデアをうみだすこと」、この2つの目的は全く異なるが、通底する要素は「カード」であると著者は考えている。「カード」を用いてブレストを行うことは少ないかもしれないが、抜群の効果がある。これは、当社でも「BRAND PALETTE」カードがあるが、自らオリジナルで作っても構わない。「方針を決めること」用のカードと、「アイデアをうみだす」用のカードがあるため、さらに説明を加えていく。
「方針を決めるため」のカードとは
社内やチームがバラバラで進むべき方向性が定まっていない時、カードを用いてブレストを行う。バラバラになっていることを誰かが整理すれば良いのでは?と思うかもしれないが、実は各々の視点は決して間違っておらず、たとえば経営者が一人で物事を決めてしまうと現場だけが知る重要な視点が抜け落ちてしまうリスクがある。また、各々が言語化できていないポイントや課題を持っている可能性もあり、その視点を言語化する目的もある。方針を決めることは、「今の自分たちはこうあるべきで、将来の自分たちはこうあるべき」という中長期視点にたって整理することをお勧めする。「将来のありたい姿」だけでは「今」と関連性が低い場合に方針策定にならないことと、「今」の自分たちだけでは成長性、成長する方向性が見定めづらいということがその理由である。方針を決めるためのカードは大きく3パターン必要だと考えている。「ターゲットを具体化するためのカード」「情緒価値を規定するためのカード」「企業/事業/商品/サービスのブランドが人間だとどういうタイプなのか」である。「ターゲットを具体化するためのカード」はネットで検索して「あらゆるタイプの人」を出力すればOK。「情緒価値を規定するためのカード」は「マレーの欲求」などをネットで調べて、言語化したものをたくさん切って用意する。「企業/商品/サービスのブランドが人間だとどういうタイプなのか」は「ブランドパーソナリティ」でネット検索すれば多くのタイプが出現するので、それをそれぞれ1枚ずつに切って準備すれば問題ない。
「アイデアをうみだすため」のカードとは
前者の、バラバラになった方向性や、情報や、課題意識を整理して「方針を決めるためのブレスト」ではなく、「アイデアをうみだすため」のブレストに必要なカードはたった2種類だと著者は考えている。多くの「ブレスト」はこちらのタイプだろう。アイデア産業である広告代理店業界に入社し18年その中にどっぷりつかってきた著者からすると、アイデアが生まれる場所は、常に他社/先行事例にあった。そして、一般的に「学ぶ」の語源は「まねぶ」からきていると言われている。つい、アイデア産業となると、「0⇒1(ゼロイチ)」の議論になりがちだが、きちんと「アイデアをうみだす」という目的達成ができるブレストは、この「まねぶ」を理解して設定していたものであったと認識している。話は逸れるが、目的設定、そして批判をせずに意見を集め、グルーピングして、整理して、資料化する。それが王道のパターンのようにあらゆる文献や記事で記載されているのであるが、アイデアの本質は「まねぶ」にあるということに立脚していない点が極めて疑問である。これだけビジネスが成熟している中で、「0⇒1」のアイデアなど成立しづらいに決まっているのに、「まねぶ」つまりは「他社/先行事例」が準備されていないことが不思議で仕方なかった。私も含めたほとんどの日本人は、「まねぶ」ことでアイデアを出すのではないだろうか。さて、どのような2種類のカードかというと、「世の中にある、価値の高いブランド」と「成功したビジネスモデル」の2種類である。それぞれをネットで調べられるだけ調べて「高価値ブランド名」「ビジネスモデル」を出力しておくだけで構わない。これらは数限りなくある方がブレストの材料になる。自分たちが生み出したい新たなアイデアは、たとえば通信業であっても「ナイキ」を模倣することで新たなアイデアも出てくるし、逆にファッションであれば「サブスクリプションモデル」を導入することで新たな顧客との契約形態、つまりはビジネスモデルアイデアも出てくることになる。この他企業/先行者事例によって、アイデアを膨らませ、ブレストを行っていくのである。
カード利用で重要性が下がるファシリテーター
「方針を決める」ブレストも、「アイデアをうみだす」ブレストも進行役は必要になる。ただし、そこまで凝り固まる必要はないと著者は考えている。「方針を決める」のか、「アイデアをうみだす」のかの目的を設定し、カードを準備さえすれば、必然的にブレストの目的は達成されるのである。よって、ファシリテーターのスキルよりも、カードというブレスト補助品の方が重要であるのではないだろうか。
「広告業務で再び注目される「ワークショップ」の効果」でも説明しているように、ワークショップと本稿でのブレストこそ、新たな産業・ビジネスを生み出す最も重要な要素だと考えている。闇雲に、一般的に言われているようなブレストのルールに則っても、結果は出ない。カードを用いながら「方針を決め」「アイデアをうみだす」ことで自動的に日本が成長する仕組みが生まれる。「広告トータルプランニング会社」である当社でも「BRAND PALETTE」としてカードを用いたブランド戦略立案事業も展開しているが、ブレストの重要性と再復興を、当社としても考え続けていきたい。
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