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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

広告に活かせるマーケティング理論「クープマンの目標値」

更新日:2023年3月23日

2004年に総合広告代理店に入社してから、17年の間に多くの企業、事業、商品、サービスを担当してきた。「失われた30年」とも呼ばれる不況下の日本において、幸いなことに数多くの事業や商品、サービスの成長を目の当たりにしてきた。業種業態は様々であるが、実は成長を遂げたビジネスにはいくつかの方程式があった。その中の一つに、意識的か無意識的かは別にして、成長するビジネスの共通項として「クープマンの目標値」的な考え方を入れているということがあった。プロモーションを担当する著者においても、その目標値に則ったメッセージ開発や戦術を整理させることになったのだが、本稿ではその点を説明していく。


目次:広告に活かせるマーケティング理論「クープマンの目標値」


クープマンの目標値とは

初めて聞かれる方もいらっしゃると思うので、クープマンの目標値について大枠を説明していく。アメリカの数学者である、クープマンが市場における各企業のシェアが持つ意味合いに注目し、市場シェアと市場推移の関係を解析し、それを田岡信夫氏と斧田太公望氏がさらに解析して、市場シェアの目標値を導き出したのが「クープマンの目標値」である。

クープマンの目標値、6つの市場シェア

独占的市場シェアを73.9%、相対的安定シェアを41.7%、市場影響シェアを26.1%、並列的上位シェアを19.3%、市場的認知シェアを10.9%、市場的存在シェアを6.8%と定めたもので、著名な「ランチェスター戦略」でも目標値として使われている。いくつか説明を加えると、独占的市場シェアとは、ごく少数のブランドしか存在しない市場で、トップ2ブランドで73.9%以上を占めている場合を「二大寡占市場」と呼ぶ。相対的安定シェアとは、複数のブランドで競争している市場でトップシェアを握るブランドのシェアのことで、トップブランドがこのシェアをとった場合、トップの地位は安定しており、不測の事態に見舞われない限り、逆転されることはないシェア目標である。まずは、このシェアを目指そうというのが著者の提案スタンスであった。相対的安定シェアを握るブランドを「ガリバー」とも呼ぶ。そして、市場影響シェアとは、市場に影響を与える水準値として、目標とされるシェアで、トップブランドが持つシェアとしては下位ブランドからいつ逆転されるかどうかわからない不安定な状態である。本稿では詳細に説明を加えないが、常に一つ上のシェアを目指すことが大事であり、そのシェアに到達した時点で戦略が変わるという点が極めて重要である。


市場シェアに即したプロモーション

広告代理店はクープマンの目標値を全く意識しない。総合広告代理店勤務時代に、自社、そして競合である他社の提案書にもクープマンの目標値が記載されていたことはなかった。特にB2Cクライアントは、熾烈なシェア争いを行っており、販路や価格帯によってシェアのとらえ方が変わる中で成長戦略を描いているにもかかわらず、呼応すべき広告代理店側にその意識が欠落していたのである。著者はこの点を至極不思議に感じていた。本来であれば、目標値シェアに則って、あるべきメッセージ構造や使用メディア、アロケーションもすべて決まると著者は考えている。たとえば、独占的市場シェアであれば更なる成長のために行うプロモーションは、市場自体の拡大でしかない。独占的な市場シェアの例でいうと日清カップヌードルやカルビーポテトチップスが代表的な例であるが、いかに人の支出を、それぞれカップラーメンやポテトチップスに割かせるか、をシンプルに考えることしかないのである。このように、それぞれの目標値に即したプロモーションの行うべき基本形が存在する。コトラーの競争地位4類型についてもそうだが、このあたりを無視した「聞こえの良い提案」が広告代理店の中にはびこっていたことに疑問を感じざるを得なかった。


今一度見直すべき、シェアに則った広告戦略

冒頭にも記載した通り、幸いにも著者はクープマンの目標値に則った形でマーケティング戦略が組まれ、その中できちんと成長に至ったいくつものブランドを担当し、プロモーションの領域を担当できたことで、「成長への確信」を持つに至った。しかし、この理論が一般化していないと言わざるを得ないと感じている。特に競合コンペなどでは、他社とは違うクリエイティブ提案やプロモーション戦略提案を意識するためなのか、たとえばシェアが10%以上に達しているにも関わらず「~に自由を」や「~に新しい選択肢を」といったシェアが極めて低くないと成立しないメッセージがあふれていた。確かに耳障りは良い。しかし、幸運にもコンペを獲得できたとしても、施策実施後に、当初計画していた結果とはならず、結局担当を外されるループとなるのである。

市場縮小時代の日本において、シェア争いはより熾烈になってくる。その中で、クープマンの目標値の基本概念に対する理解をせず、プロモーションを実施することは無謀と言わざるを得ない。「広告トータルプランニング会社」である当社では、必ずクープマンの目標値を明示しながらカウンセリングを行っているが、基礎的なこの理論が一般化されることを切に望んでいる。

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