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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

意味をなさなくなりつつある広告代理店の自主調査

更新日:2023年3月23日

データというものの重要性が下がりつつあることは「データドリブンの今こそ、フレームワークによって視点を定める」でも説明しているが、かつての名残で、特にコンペなどの際には広告代理店側が自主的に調査を行う事が多くなっている。広告主から費用をもらう調査については、広告主も知らないことを調べるがために、新たな発見もあろう。しかしながら、自主的に広告代理店が行う調査については意味をなさなくなりつつある。17年の総合広告代理店時代、広告主から費用を頂いて調査したことは価値ある発見もあったが、特に競合コンペの際の自主調査などは一度たりとも効果があったと思えるものはなかったと著者は考えている。本稿ではその点について説明していく。


目次:意味をなさなくなりつつある広告代理店の自主調査


自主調査を行う理由

広告代理店は需要産業である。その他多くのビジネスとは違い、先行投資が極めて少ない。一番の先行投資は、オリンピックやワールドカップなどのスポーツイベントのスポンサー/放送枠権取得であったり、アニメや映画などのコンテンツに製作協力金を事前に払った後に広告販売権を取得するようなものであろう。メディアだと、いわゆる「買い切り枠」という独占販売媒体枠を取得するものもあるが、先行投資と呼べるほどリスクが高いものではない。その中で、特に競合コンペなどを行う際は、自分たちが主張する提案が正しいことを論証するため、または提案の糸口を見つけるために、ターゲット調査やユーザー調査を行う。それによって提案内容に説得力を増し、競合コンペに勝利しようとするものである。数少ない広告代理店の先行投資である。


自主調査結果は「ズレ」か「当たり前」

事業会社ではない広告代理店は、コンペのテーマである事業、商品、サービスについてその事業のすべてを把握しているわけではない。その中で提案の与件であるターゲットやユーザーの実態を把握しようと、提案前に自主調査を行う。しかし、広告主も当たり前のように自主調査をかけ、課題の設定を行い、仮説をもってオリエンに挑んでいるのである。よって、広告代理店が自主的に行った調査で得た「ファインディングス」については、2パターンの結果になると考えている。それは、「ズレ」か「当たり前」だ。


なぜ「ズレ」が生じるのか

著者が新入社員時代から担当していた某大手通信会社はデータの宝庫であった。数千万人にも上る契約者の利用実態を把握している。たとえ広告代理店が自主調査を行っても、そのサンプル数は数百程度から数千程度。そこでの仮説など、広告主からしたら10000分の1のデータ量でしかなく、提案内容が広告主が自ら立てた仮説と違った場合は、前提となる調査設計に恣意性があるか、サンプル数の少なさのどちらかが要因だと認識される。つまり、付け焼刃的な自主調査はどうしてもサンプル数が少なくなり、設計自体に恣意性を感じてしまうのである。そのことを、広告代理店は気づいてか気づかずかは別にして、自主調査を行っているのだ。


なぜ「当たり前」の仮説となるのか

たとえ「ズレ」がなかったとしても、その他の調査結果は「当たり前」であることがほとんどである。それも当然で、広告主も調査に調査を重ねて、課題の設定を行い、仮説の検証を行っているのである。たった2週間程度の調査を行った程度で、新たなファインディングスなどあろうはずもない。自信を持って広告代理店のストラテジックプランナーは調査結果をベースに提案を行っても、「はい、知っています」という広告主の反応を何度も目の当たりにしてきた。「ズレ」がなければ「当たり前」、この2つのパターンに陥りがちになるのが、広告代理店の自主調査なのである。


なぜ自主調査を行うのか

ここまで説明したように、広告代理店が自主的に調査を行うことに何の意味もないどころか、数十万円から数百万円の出費、つまりは赤字を垂れ流しているのである。ではなぜ、広告代理店は自主調査を行うのか。答えは簡単で、広告対象物の市場シェアやトレンド、競合の状況、業種業態などを見れば、プロモーション領域で何をすべきかすぐにわかることがプロなはずであるが、その方程式が備わっていないがために、「何を提案すべきかわからない」状況に陥っているのだ。競合コンペ前に自主調査を実施しようと、多くの広告代理店が考えてしまう原因は、体系だてられた知識のなさに起因するのである。



脱、自主調査に向けて

データドリブン時代に、調査結果というデータの価値も下がっている。かつては調査データ自体が貴重であったが、今はそうではない。購入者データの方が説得力が高いためだ。その点を強く意識し、投資対効果の低い自主調査を行わず、プロとして広告対象物に適する提案を行うことができようになれば、「ズレ」もなくなり、自主調査費用という無駄もなくなるだろうと、著者は考えている。



ここまで説明してきたように広告代理店の自主調査は今後ますます意味をなさないものになると著者は考えている。もっとプロとして必要な情報提供のあり方とは何か、を模索すべきだと考えている。「広告の専門家」として本当に必要なものとそうではないものを仕分けした結果、自主調査ではなくフレームワークに即座に悩みを解決する「広告トータルプランニング会社」である当社を設立した。今後、広告代理店の競合コンペにおける提案内容や提案プロセスが変わることを、強く望んでいる。

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