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執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

広告代理店の忘れ物「人は忘れる生き物」

更新日:2023年10月24日

ビジネスを行う上で認知を獲得することが大切であることは疑う余地がない。総合広告代理店は、この「認知獲得」という領域でビジネスを行ってきたと言っても過言ではない。しかしながら、人は「忘れる生き物」である。忘れてしまう生き物である人間に対して、広告をあて、商品を売ったり、契約を獲得するわけなので、この性質を絶対に忘れてはならない。さらに、誰に認知されるべきかも、総合広告代理店がそれこそ「よく忘れてしまう」ことである。著者は総合広告代理店に勤めた17年の間、片時もこの「当たり前」を忘れることはなかった。本稿ではこの「忘れる生き物である人間」について説明していく。


本稿はこのような方におススメ!


✔ 認知が重要と言われてもピンと来ない広告主

✔ TVCMで本当に認知率が上昇するのか不安な広告主

✔ TVCMを行ったのに売上が伸びなかった広告主

✔ 認知に課題を感じている広告主


目次:広告代理店の忘れ物「人は忘れる生き物である」


20分後には4割を忘れる生き物、それが人間

記憶の定着について、有名な「エビングハウス忘却曲線」というものがある。1850年生まれのドイツ人、ヘルマン・エビングハウスが説いた、記憶の定着カーブである。私もこの理論の反証実験を行ったことがないのであるが、たとえばWebサービスやアプリの場合、広告がヒットしてからどの程度の時間でサイトアクセスまたはアプリダウンロードがあるかという定義だと、広告主がたいてい2時間以内に設定している点から考えても、おそらく妥当なのであろうと考えている。


そのエビングハウス忘却曲線は、人は2時間後に4割を忘れ、1日たてば74%を忘れ、一か月後には79%忘れるということを示したものである。CMを一度覚えても、20分後に4割も忘れてしまう人間に、「覚え続けてもらおう」という時点で、難題なのである。


エビングハウスの忘却曲線
エビングハウスの忘却曲線

CMを「覚えてもらう」ための3ヒッツ理論

さて、先のエビングハウス忘却曲線は、「覚えてもらったとしても」、人は20分で4割を忘れる生き物であると説明した。しかし、実はもう一つハードルがあるのである。それは、「覚えてもらうまで」である。実は、人は一度情報に接した程度では記憶しない。一日を終えて、通勤時に同じ電車に乗っていた人の顔を覚えているだろうか?信号が何個あって、木が何本生えていたのかも覚えているだろうか?


つまり、人は「覚える」までにもハードルがあるということなのである。こちらも広告業界では、3回広告を当てれば、その広告を覚えている人が多いという「3ヒッツ(スリーヒッツ)理論/セオリー」というものがある。ハーバード・E・クラグマン博士が考案したものだ。しかしながら、5ヒッツ理論や、7ヒッツ理論など、数多の理論が同時に生まれることにもなる。


業種業態や接触方法/接触時間などにもよるし、何よりターゲットの、その広告物に対する興味度によって大きく異なるため、一概には言えない。しかしながら、3回は広告を当てないと覚えてすらくれない商品やサービスが多いという事を記憶しておくことは大切である。


長期記憶化しないという悲しさ

長期記憶の方法はいくつかある。スクワイヤーが1987年に説いた「宣言記憶」と「手続き記憶」があり、「宣言記憶」には「エピソード記憶」と「意味記憶」があるという区別が最も流通している考え方のように思う。購買行動を主眼に置くと、この中では「エピソード記憶」が最も重要な概念である。極めて端的に説明すると、自ら体験したものを長く記憶するということだ。


ここで「体験」という言葉が使われたことで、長年総合広告代理店は「体験」に価値があると説いて回るようになる。しかし、エピソード記憶の「体験」は買って、体験して(例えば飲んだり食べたり)、どう思ったか、が記憶の定着につながることであるので、それらは「購入」でしか記憶へのアクセスをすることができない。


総合広告代理店はこの「体験」を理由に、様々なイベントやフィールドプロモーションなどを行ってきたが、それらの主語が「広告」である限り、「またその広告イベントに行きたい」と思うことはあっても、その広告対象物を購入しようと思うこととの相関は未だに証明されていない。データで分析できるようになったことで、イベントやフィールドプロモーションが、認知および購入のいずれに対してもいかに非効率であるかはすでに広告主には伝わりきっているが、未だにそれらを提案しようと試みる総合広告代理店が多いことも事実である。さらに、コロナによってその必要性がより一層問われていると言っても過言ではない。


広告体験よりも、衝動買い

購入は計画的購入と非計画的購入とで分かれる。この非計画的購入を、衝動買いと呼び、当然のことながら単価の安い、消耗品に多くみられる。平均購入単価が577円であるコンビニエンスストアなどは衝動買い比率が高く、高額なものは計画的購入が多い。単価が低い商品群は、衝動買いが非常に多いため、いかに広告で必死に認知を獲りに広告投資を行ったとしても、記憶の定着の観点からだと広告未実施であっても衝動買いさえしてくれればよくなる。


CM投下よりも店頭の棚で目に留まって買われさえすれば問題ないということだ。こういったことを踏まえ、P&Gは店頭接点における購入時の意向が最も大事であるという概念のFMOT、つまりファーストモーメントオブトゥルースを説いたが、まさに来店前の認知が最も大事だと総合広告代理店が説いて回っていた、「認知神話」が崩壊し始めている証である。


人は、20分後には4割忘れる。しかも、3回以上接触しないと広告を覚えてすらくれない。さらに、いずれにせよ購入に勝るエピソード記憶はなく、衝動買いにも勝てない。その中で、「広告における認知神話の崩壊~販路至上主義へ~」でも説明しているように、今では「認知」よりも「販路」が強い。「広告トータルプランニング会社」である当社では「人は忘れる生き物」ということを前提にカウンセリングのプロセスを踏むが、こういった中で、総合広告代理店がどのようなケイパビリティを発揮すべきで、広告主は何を重視して広告活動を行うのだろうか。

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