top of page
  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

アウトソース化とインハウス化に翻弄される広告代理店

更新日:2023年3月23日

企業が多くの従業員を雇い続ける日本型終身雇用制度は、大企業においても崩壊しつつある。今や、味の素やカシオなどの大企業も早期退職制度を採用している状況だ。固定費の削減のために、ビジネスアウトソース市場は成長の一途をたどる。社員という固定費を払うよりは、アウトソースした方が身軽になるからだ。そうした中で、プロモーション領域では、インハウス、つまり広告主が自ら広告物を制作したり、デジタルメディアの運用を行うことが増えてきた。同時に特にマス広告のようにアウトソースを余儀なくされるものは価格破壊が起こっている。著者が総合広告代理店に勤めた17年の間に、この「インハウス化」と「アウトソース化」の波はすさまじいものだった。そしてこの流れは今後もさらに加速すると著者は考えている。本稿では、増えるアウトソースの内容と増えるインハウス業務の内容について、説明していく。


目次:アウトソース化とインハウス化に翻弄される広告代理店


「マスメディアの代理店」であった広告代理店

かつてマスマーケティング主流の時代はTV局や新聞社などのマスメディアに対して、広告主は取引口座を開設できなかった。広告出稿の際には必ず広告代理店を通すようにと、各マスメディアから言われたためだ。こうして、不思議な仲介業である広告代理店が誕生する。もともとは各マスメディアの広告枠の販売代理を行う代理店であって、広告代理店にとっての真のお客様はマスメディアであり、逆にマスメディアからも必要な存在であった。電通では、マスメディア担当者を「営業」と呼び、広告主の担当を「連絡係」と呼んでいたのである。広告主から広告費を頂くのではなく、流し込んだ広告のマージンをマスメディアから頂けるという考え方であった。つまり、今の広告代理店からすると発想が全く逆の状態であったわけだ。言い換えると、広告枠販売をマスメディアからアウトソースされていた時代である。


「マスメディアの代理店」から「広告会社」へ

1990年代後半になると、そういったスペースブローカー的な仲介を生業にする代理店業から意志ある独立団体への変化の意味を込めて、「広告会社」と名乗ろうとする動きが強まる。著者が総合広告代理店に入社した2004年当時、しきりに「広告会社」と自らの業界を名乗ろうとしていたことを覚えている。若輩者であり営業担当だったため、業界名から「代理店」を外したい理由を、「広告主の代理ではない!」という自己主張と考えていたが、全く逆の、マスメディアや広告枠販売代理業からの脱却を意図したものであった。


営業マンの代わりを広告が担う通販系企業の増加

自宅に投函されるチラシや折り込みチラシ、新聞広告、TVでの長尺のインフォマーシャルなどで広告を流し、社内で営業マンを全く抱えず、商品を販売する企業形態は通販系企業と呼ばれている。自社商品を載せたカタログをまるで雑誌のように制作して販売するニッセンも、TVCMでよく見かける再春館製薬も、通販系企業である。今ではInstagramやリスティングなどに出稿して購入まで至らせる、D2C、Direct To Consumer企業も増えているが、営業担当を設置せず、広告だけで顧客獲得を行っている通販型ビジネスも多く存在する。これら通販系企業は、簡単に言えば営業マンを広告代理店にアウトソースしているようなものである。通販系企業の増加はすなわちアウトソースの増加を意味し、2010年代までは増加を続けていたように思う。


ネット広告の隆盛で通販系企業もデジタルシフト

チラシや新聞、TVのインフォマ―シャルを「営業マン」としていた通販系企業も、デジタルの登場で実施施策のデジタル比率は高まっていく。しかし、デジタルにおいては、常に管理画面を見ることができるため、広告代理店の運用に不満を持つようになり、ネット系代理店に勤務していた中途社員を採用するなどして、広告主社内で内製、つまりはインハウス化することが急増している。または、格安で広告代理店にデジタル運用を外注して、監視を続けるような発注形態も増えてきた。後者の場合、売り上げ規模は高くとも、広告代理店側のデジタル担当は、日夜広告主から監視されることに疲弊しきって、退社や休職においこまれるケースも多い。つまり、格安でデジタル運用を外注する場合でも、広告代理店側がマンパワーの問題で受けきれなくなり、結果的に外注先が見つからず、広告主が自社運用することにつながっていく。


インハウス化が加速する広告制作業務

デザイン性の高い広告物は、かつては専門誌やデザイン誌にしか掲載されていなかったが、今ではネットを検索すれば誰でも簡単にかっこいい・美しい・素敵な広告デザインやCMを調べることができる。さらに、最近ではそういったものの作り方まで掲載されている。誰でも簡単にセミプロ化できる時代となったのだ。つまり、上がってくるのが遅く、しかも高額になってしまう広告制作物を外注するメリットがどんどんなくなってしまっている。一気に市場を創り上げた、ハズキルーペのTVCMも広告主側の、しかもトップが自ら考えた企画になっているそうだ。当然最初は広告代理店側にTVCMプランを委託したそうだが、一向に満足のいくものがあがってこず、結果的に自らが企画したという。資生堂、エステー、コーセー、ヤクルトなどと、インハウス化している大企業はすでに多く存在するが、今後もその動きは加速すると思われる。



制作はインハウス化、激安メディア運用はアウトソース

これまで説明してきたように、デジタルの登場は広告代理店のビジネスを大きく変えてしまった。ネット検索すれば制作物は誰でもセミプロにすぐになれてしまう。広告主社内では面倒とされるデジタル運用は、管理画面での管理を徹底したうえで激安で広告代理店に運用させるか、広告代理店の費用が高ければ自社で経験者を採用して人員を確保する。コスト意識の高まりから、すでに注目を集めだした運用型TVCMをはじめ、「運用型」という名のもとの激安メディア案件が一般化する。制作物インハウス化の加速、激安アウトソースメディア案件が広告代理店の未来だと、著者は考えている。


暴論かもしれないが、18年勤めた総合広告代理店において、この2~3年の激変は全く予想できなかった。広告代理店社内で聞こえてくる案件の多くは、総額は高くともコストリダクションが前提のものであった。制作業務は広告主がインハウスで行い、安価にメディアを獲得する、それが主流になりつつあった。総合広告代理店のビジネスに限界を感じ、「広告トータルプランニング会社」という今までになかった概念の会社を起業し独立したわけなのだが、先の未来を予測しながら、私も事業運営をしていかなければと、気を引き締める思いである。

bottom of page