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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

広告代理店を取り巻く厳しい環境~人材・働き方篇~

更新日:2023年3月23日

今や、転職することが稀ではなく、一社で仕事人生を全うすることの方が稀なビジネス環境にある。中途採用が一般化されることで、資格職ではないものの、専門職的な色合いの強い総合広告代理店においても、若手の退出および転職者の流入は増え続けている。また、業界最大手の電通における、ある事件によって、働き方が監督省庁から厳しく監視されることとなり、36協定の順守は企業必須要件となっている。17年勤めた総合広告代理店時代、特に晩年はこの「働き方改革」が仕事に極めて大きな影響を与えていたと感じている。総合広告代理店の唯一の商材である人材についても、大きな考え方の変化が起こっているのだ。本稿ではその人員の問題について説明していく。


目次:広告代理店を取り巻く厳しい環境~人材・働き方篇~


未経験中途採用者の増加

総合広告代理店において、業界内での転職は起こっていた。多くは下位代理店から上位代理店への転職が多かったように思うが、有価証券報告書上では、業界上位10社の平均勤続年数が15年にも満たないのはそういった点であった。しかしながら、昨今の転職・中途採用市場の活性化によって、同時にDXへの対応などの業務多角化によって、未経験中途入社人材が増え続けている。ビジネスの経験はあれど、特殊な総合広告代理店のビジネスモデルや業界慣習に順応しきれないことも多々発生する。広告主からはすればプロであることに変わりはないため、未経験中途であろうが、プロとしての対応を求められることになるが、未経験中途入社人員へのスピーディな教育制度の導入が必須となる。


残業が当たり前の文化から、36協定順守の文化へ

「広告主への満足度を130%に上げようとしてきたこれまでのビジネスモデルを変えざるをえない」。電通において、ある事件が起こった際に当時の電通の社長が口にした言葉である。広告主の無理難題を、残業してでも何としてでも叶えてきたが、それが社会からの厳しい批判にあう重篤な事案を起こし、当局からの監視の目が、電通だけではなく業界全体に対して厳しくいきわたることとなる。かといって広告主からの要求レベルが下がることはないどころか逆にスピード感を増し、36協定順守を最優先にしながら、対応することを余儀なくされている。ワークシェアリングを目的に、新たに人員を採用しようにも、広告業界全体の利益低下にある中で、人件費増加がさらに利益を削ってしまうこととなる。



デジタル業務の増加と業務の細分化がもたらす業務量

マスマーケティング主流の頃には調査して、CMを作って、CMを流す、といったシンプルな流れであり、総合広告代理店にとっては非常に効率的であった。しかしながら昨今では、メニューも多岐にわたるデジタル予約型広告、公式SNS運用、ブランドサイト制作、LP制作、リスティング等のデジタル運用型広告など多岐にわたり、ROIを意識して小額投資で数多くのプロモーション施策を進行することになる。結果的に、総合広告代理店においてもネット系代理店からの中途採用者が増えるのだが、残業禁止を受けての人員増加であってもカバーできない分量の業務を抱えることになっているのだ。この流れによって、「SEOやリスティングが苦手な広告代理店」となるのである。



より一層スピードが重視されるビジネス構造

いまや、ビジネスで最も大切なことはスピードである、と誰にとっても疑う余地はないだろう。広告主にもスピードに対する意識が根付いており、おのずと総合広告代理店への要求スピードも上がっている。このスピードの速さを止めることは決してできない。そんな中でで、広告代理店の提案は日に日に遅くなっている。数多要因はあるのだが、その一因に人員の少なさがあるのだ。この点については「「提案が遅い」と言われてしまう広告代理店の「裏事情」」でも説明している通りである。


36協定順守による残業禁止で人員増強するも未経験中途人員が増え、それでも主にデジタルによって増え続ける業務量をカバーすることはできず、とかく広告主からスピードを求められる。著者は18年勤めた総合広告代理店を辞め、「持たざる戦略」で「広告トータルプランニング会社」である当社を設立したが、総合広告代理店の人員に関わる環境も、極めて厳しいのだ。

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