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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

誤解されつつある「ブランディング」~「イメージ戦略」との違い~

更新日:2023年10月24日

タレントYOUTUBERやビジネス系インフルエンサー/YOUTUBERの登場により「ブランディング」という言葉が急速に一般化しつつある。かつては高級ブランドの専売品かのような誤解を受けた「ブランディング」が、今また「誤解を招く使われ方をしながら」広がっている。17年勤めた総合広告代理店時代、多くの「ブランディング」という言葉を聞いてきたが、きちんとそのブランドを伸ばし続けられた「ブランディング」には必ずきちんとした定義と解釈があった。本稿では、本来的な「ブランディング」や「ブランド戦略」と、巷間聞くようになった「ブランディング」との違いについて説明していく。


目次:誤解されつつある「ブランディング」~「イメージ戦略」との違い~


ブランドの語源は「牛などにつけた焼き印」

「ブランド」の語源は古ノルド語の「brandr」、焼き印だと言われている。自分が飼っている牛とよその牛とを見分けるための焼き印のことだ。すなわちシンプルに解釈すると、ブランドとはすなわちロゴのことである。その後、18世紀のスコットランドで自社のウイスキーへの「信用」の証として、ロゴを入れるようになり、ここから全世界的に「商標権」というものが生まれてくる。


日本では1900年に商標法や特許法が制定される。つまり、ブランドのロゴというものは、品質を保証する機能と、出所を示す機能とがあった。そこを前提として、広告・宣伝機能も保有するようになるのである。昨今では、それらを総じて情報処理の簡略化の機能も有していると思われる。つまり、ブランドとは識別記号と知覚価値を有したものと言い換えることができる。なお、ロゴ開発について肝要なことについては、「ロゴ開発で忘れがちな「市場」の視点」でも説明しているので、ぜひともご覧いただきたい。


マーケティングとブランディングの違い

マーケティング戦略と、ブランド戦略またはブランディングとの違いについて、かねてより議論になることは多かった。「売れる仕組みづくり」をマーケティングと呼び、「売れ続ける仕組みづくり」をブランディングと呼ぶ、ということが定型化していたが、著者は少し違う考え方である。商品やサービスといったプロダクト単体を主語にしたものがマーケティングで、ブランドを主語としたものがブランド戦略またはブランディングである。


そしてもう一つの大きな違いは、商品には必ず衰退し撤退するフェーズが訪れるが、ブランドはさまざまな商品やサービス展開をすることによって、未来永劫生きながらえることができる。フィルムの会社だった富士フィルムが、同じブランドでありながらも化粧品事業に進出したことは好例であろう。マーケティング以上に大切なブランド戦略を描かない企業が多いのは意外な事実である。端的に表現すると、経営戦略の下位に位置し、マーケティング戦略の上位に位置するのがブランディングまたはブランド戦略である。


ブランディングが誤解されている
ブランディングが誤解されている

ブランディングとプロモーションの違い

一緒くたにされることが増えているが、ブランディングとプロモーションは全く異なる。プロモーションはあくまでマーケティング戦略の「一部」であり、マーケティングミックス4Pのうちの「Promotion」である。つまり、ブランディングまたはブランド戦略がまずあって、その下位にマーケティング戦略があり、その一部にプロモーションがあるとお考えいただきたい。


次項以降で詳細を説明するが、「ブランディング=イメージ戦略」となりつつあることから、表現戦略や「雰囲気」のように思われているように感じる。しかし、結論としては、その考えでは「時代の後追いをし続けること」になりかねない。今の時代の「空気感」にあわせてブランドの表現を変え続けるのではなく、将来の市場を見据えて極めて合理的に考察し、意志を持ってインナーとアウターに提示していくことがブランディングである。


アウターに出ていくという意味でプロモーションと誤認される部分があったり、「広告費をかけない表現戦略=ブランディング」と捉え、広告とは違う、等と評されることが多いが、そもそも戦略の立ち位置がプロモーションよりも上位にあるのである。


広告クリエイターの使う「ブランディング」とは

ブランディングとは、識別記号と知覚価値であるが、それは何も広告だけによってもたらされるものではない。特に知覚価値について、最も大切なことは生活者の購入や利用の実体験である。後にも先にも、知覚価値について、これに勝るものはない。そうであるにも関わらず、広告、しかもCMだけによって知覚価値を形成することにはならない。


パッケージ、ブランドサイト、公式SNS、店頭POP、リスティングのワードから何から何までの体験接点のすべてを一貫性もってクオリティ管理してこそ、購入以外の知覚価値形成がまっとうできるのである。商品告知型CM、理解促進型CMがあり、そして「何となくの雰囲気CM」、これを「ブランディングCM」と呼んでいた時代はあったが、それは高度経済成長期の「産めよ増やせよ」の時代だから成立したものであって、少子化に歯止めがかからず不況の30年を迎えている日本においては、ワークすることはありえないと著者は考えている。しかしながら、昔取った杵柄で、いまだに「CMのみでブランディングがなされる」と認識しているクリエイターもいることは事実だ。


ブランドを設計しなおす必要性
ブランドを設計しなおす必要性

SNSコンサルが語るブランディングは「イメージ戦略」

広告クリエイターでもない、SNSマーケターやインフルエンサーなどが頻繁に「ブランディング」と口にするようになってきた。著者としては違和感でしかないのだが、ブランドの語源となった識別記号、つまりはロゴやサインが存在しない中では、まずもって「ブランド」ということが成立しない。「彼らの話すブランディング」とは、色や余白などの「カラーマネジメント」の域を出ず、またこういう人間なのだという「イメージ戦略」の域を出ないのである。


こういった「ブランディング」を信じてしまうことで、事業や商品やサービスが成長する正しいブランディングとかけ離れてしまう。かつて芸能人を「イメージ」で評していたように、その「イメージ」が「ブランディング」へと言い換えられたに過ぎないのである。


ブランドの礎となる「オウンドメディア」

正しいブランディング、つまりはブランド戦略はどこで世の中に伝えるべきか。それは「ブランドサイト」や「公式SNS」となる。ひとたび販路に出てしまえば、そのブランドは競合にまみれ、独自性を担保できない。しかしながら、「ブランドサイト」や「公式SNS」であれば、自分たちが志す「VISION」や「MISSION」、そして世の中に提供する「VALUE」なども自由に伝えることができる。かつて「HP」と呼ばれていたものが「ブランドサイト」と呼ばれるようになったのはこういった点からだ。


そう考えると、「ブランドサイト」の重要性は増す一方で、「HP」の重要性は下がると著者は考えている。両社の違いは「ブランドのVISION/MISSION/VALUE」がきちんと掲載されているか否かの違いである。「少ブランド多品種少量生産時代のプロモーションとは」でも説明しているように、人は「ブランド」を非常に気にしているのだ。また、公式SNSも同じような意味合いがあるが、SNSはそれぞれで役割が異なる点を理解していなければならない。


ブランドがコミットするTONE&MANNERについては公式Instagramにて表現し、提供価値の主に機能価値については公式Twitterにて表現すると整理すると良いだろう。なぜなら、Instagramは「ユーザー=人」「世界観」を検索するプラットフォームであり、Twitterは「情報」「ウラ話」を検索するプラットフォームであるからだ。LINE公式アカウントは、ブランディングではなく、CRMに近い役割であるため、そこまでブランドを意識しなくて良い。そういった中で「ブランドサイト」の重要性が増すのは当然のことであろう。このあたりは「オウンドメディア中心のプロモーションに総合広告代理店はどう向き合うか」でも説明している。


ブランドは成長しつづける

少ブランド多品種少量生産時代のプロモーションとは」でも説明をしたように、今もっとも大切なのは「ブランド」である。商品の移り変わりが激しく、寿命の短い商品を主語にしても、すぐに時代に追い越されてしまう。しかし、ブランドであれば、プロダクト、つまりは商品を変えながら、生きながらえることができる。未来をいかに予測し、先にアクションを起こし、ブランドの次のステージへと進み、新たなプロダクトを開発していく。


スピードが速まったとはいえ、この視点さえあればブランドが衰退することはない。当社ではこのプロセスを、「ブランド・ライフ・サイクル」、略称「BLC」としてフレームワーク化しているが、世の中に100年続くブランドが溢れることを期待している。


リブランディングとは何か

上述のように、ブランドは成長し続けることができる。スターバックスやレッドブルのように今もなお「ブランド」が評価され続けているブランドは、「リブランディング」を行い続けている。広告代理店の「リブランディング」は「タレント変更」と「CMのトンマナ変更」とすることが多いが、今までこの捉え方で「リブランディング」に成功したブランドはないのではないだろうか。


リブランディングとは「市場定義変更」「ターゲット変更」「提供価値変更」を行い、伴ってロゴやパッケージ、ブランドサイトや公式SNSが変わり、最終的にCMをはじめとしたプロモーションも変わってくるものである。こういったプロモーションに至る前のプロセスの方が重要なのだが、広告代理店は意に介さないことが多い。


ブランド戦略立案で気を付けること

ブランド戦略を立案するときにまず重要なのが、事業戦略とブランド戦略、マーケティング戦略をきちんと理解することになる。詳細は「広告代理店視点での、事業戦略とブランド戦略の違い」をご覧いただきたいが、全くその性質は異なるのである。この点が最も重要である。


次に、ブランド戦略を立案する際のパートナー選びにも気を付けなくてはならない。大きくは「総合広告代理店」と「ブランドコンサル」がいるが、それぞれで気を付けなければならないポイントがあるため、詳細は「「失敗しないブランド戦略」のための5つのポイント」をご参照頂ければと思う。


ブランドコンサルと広告代理店の違い

著者も「広告代理店」として多くのブランド戦略案件で「ブランドコンサルティングファーム」と競合コンペを行ってきた。コンペで負けてしまったものもあるが、その後すぐにクライアントから連絡があり、結果的に著者で請け負うこととなったことも多い。クライアントのスピード感とブランドコンサルのスピード感が合わないという点が最も大きく、次いでコストの面であったように思う。


このあたりは「広告代理店とブランドコンサルティングファームとの違い」で説明しているが、その他プレイヤーとは違い、著者は最もブランドコンサルの考え方が合っていると感じている。しかし、プロモーションを行う実行力が無い点とコスト、スピード感がクライアントにとってはどうしても看過できないのであろう。


イメージを合致させていくことが大事であることは言うまでもない。しかしながら、ブランドを主語としながら、「売れ続ける仕組み」を作るべく、識別記号と知覚価値をきちんと設計し、一貫性をもってすべての顧客接点をデザインしつつ、持続的な成長戦略を描くことが、「ブランディング」である。この点については「ブランディングとは」をぜひともご覧いただきたい。


また、同様にコトバが乱用されがちな「プロモーション」と「広告」の違いについては、「「プロモーション」と「広告」の違い」をご覧いただきたい。

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