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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

広告代理店を取り巻く厳しい環境~コンサルティングファーム参入~

更新日:4月16日

2020年も暮れのこと、某有名元国営企業が、広告代理店選定を行ったのですが、総合広告代理店上位3社の電通、博報堂、ADKに加え、最後に名を連ねたのがコンサルティングファームであるアクセンチュアでした。2019年までは、そこには某大手ハウスエージェンシーが座していましたが、その座を奪ってのアクセンチュアの参入に広告業界はどよめきました。


また、某大手化粧品会社の海外進出におけるマーケティング戦略パートナーも、それまでのマーケティングパートナーであった電通ではなくアクセンチュアと銘打たれていました。著者が17年勤めた総合広告代理店時代、外資系経営コンサルや国内SIer系シンクタンクとも競合してコンペに臨むこともありましたが、今後もこの流れは加速していくと思われますので、本稿ではその点について説明していきます。

※2022年9月26日改稿


本稿はこのような方におススメです


✔ 広告代理店とコンサルティングファームとの明確な違いがわからない

✔ 広告代理店とコンサルティングファームのどちらに依頼すれば良いかわからない

✔ コンサルと競合することになった広告代理店勤務者


目次:広告代理店を取り巻く厳しい環境~コンサルティングファーム参入~


元来競合していた広告代理店とコンサル

クライアントに戦略を提案する仕事という意味では同じである総合広告代理店とコンサルティングファーム。主にマーケティング部署や宣伝部署を相手に、戦略を提示する総合広告代理店と、経営層を相手に戦略を提示するコンサルティングファームがぶつかることもありましたが、明らかなバトルフィールドの違いから、なかなか相容れることはなく、電通や博報堂は小会社にコンサルティングファームを設立しているほどでした。クライアントからしても、双方の役割論は明確であり、両社をコンペに呼んで競わせることは稀であり、決して一般的なことではなかったと思います。



双方の境目があいまいになることになったDXの潮流

しかし、時の流れと共に日本経済が停滞し始めると、広告代理店は「広告市場内における差別化」のために、広告宣伝領域ではなく「事業・経営」へと川下から川上までその「戦略提案領域」を広げました。逆にコンサルは経営層を相手にした「絵に描いた餅」とも言われかねない戦略提案を実際に稼働させていくために川上から川下まで「戦術提案領域」を広げました。その結果、徐々にだが両者が激突することになっていくことになったのです。


その中で、総合広告代理店とコンサルティングファームの境界がさらに曖昧になったのは、「DX」がビジネスの主流となったからだと著者は考えています。1stパーティや3rdパーティのデータを軸に効率的なマーケティングを実行しようという機運が高まり、データドリブンマーケティングという言葉が生まれ、データの取得と顧客の体験接点とが相まって相関しながら顧客獲得を行うという点で、デジタル及びデータに準拠するコンサルティングファームと総合広告代理店とが競うような構造になりました。


アクセンチュアは電通に勝つのか
アクセンチュアは電通に勝つのか

存在感を強めるアクセンチュア、広告代理店出身者も転職

元々はITコンサルであるアクセンチュア、人事コンサルのプライスウォーターハウスクーパース(PwC)、会計コンサルであるデロイトトーマツが「DX」「デジタル」の文脈の中で広告領域にも力を入れ、各所で広告代理店との競合コンペが行われています。


各社いずれも広告代理店経験者を中途採用で積極的に採用しており、中でもDXと相性の良いITコンサルであるアクセンチュアのプロモーション領域の進出は加速を続けています。同社は1万人を超える従業員を抱えながらも、総合広告代理店のようなアウトソース文化はなく、基本的には内製して社内で案件完結させることが基本です。優秀な人材も多く、DXの担い手としては総合広告代理店にとっては強すぎる敵でしょう。前述の資生堂のマーケティング・パートナー選定も深く頷けます。


DXの文脈で生まれるコンサルと代理店の対立構造
DXの文脈で生まれるコンサルと代理店の対立構造

コンサルでは「ブランド価値の高め方」はわからない

17年の総合広告代理店勤務時代に、コンサルともコンペしてきた著者が考える両者の違いは、たった一つです。「短期的売上」ならコンサルに分があり、「長期的売上」なら広告代理店、中でも総合広告代理店に分があると考えています。


まず、顧客との情報接触の中心が「デジタル」にあるということを前提にします。周知のとおり、今やTVCMよりもデジタル広告の方が市場規模が大きいためです。そのうえで、「デジタルを用いて商品を効率的に売る」という事においては、デジタル広告ではコンサルと広告代理店とで大差がつかない中、総合的な、システム構築も含めたDX知見という意味ではコンサルに軍配が上がります。


しかし、時代に合わせて接点をデジタルにシフトしただけであって、その企業や事業や商品やサービスの「価値=プレミアム」は上がっていません。経済が停滞している日本において、「高い値段で安定した利益を確保しながら、少しずつブランドの出で立ちを変えながら成長し続ける」ことの重要性は言うまでもありません。コンサルはこの「持続的なブランドプレミアム(価値)の創出方法」が得意ではないなと感じていました。


おそらく、1カ月や半年、長くても数年程度の「プロジェクト」で業務を受注するため、PL的な中期経営計画はいとも簡単に書けても、一つひとつを「ブランド」とみて、企業ブランド・事業ブランド・商品ブランド・サービスブランドの価値を高め続ける手法や戦略には知見が無いのでしょう。


総合広告代理店の中で、中長期的なブランド価値向上戦略立案を得意とする人間がどの程度存在するかはわかりませんが、少なくとも総合広告代理店には、数年いや数十年とブランドの経済活動に伴走する「AE制」が存在します。短期視点のコンサル、そして残念ながら短期的・単発的施策重視代理店とは違い、常に中長期視点が必要であり、決して短期的な「安売り」施策を行わずに「ブランドプレミアム(価値)」を意識しながら売れ続ける仕組みづくりを模索すします。その結果、「ブランドプレミアム(価値)を上げ続ける方法と戦略」が、決して共通化できないものの、「個人」の中には蓄積されていきます。よって、「長期的売上」であれば、総合広告代理店の方が可能性がある、ということになります。


しかし、残念ながらコンサルとは違い、総合広告代理店社内においてケーススタディーが共有されないがために、ブランドプレミアム(価値)の高め方は共通化・一般化されず、どうしても属人的となってしまいます。そのため、クライアントにとっては「ブランドプレミアム(価値)を高められることが、総合広告代理店の基本スペック」とはならないのですが、それはクライアントとの守秘義務契約があるため共通化・一般化しづらいという事情も大きいかと思います。よって、「ブランドプレミアム(価値)の高め方を知っている総合広告代理店担当者」と出会ったクライアントは幸運だとお考えになられた方が良いかとも思います。


まとめ

ここまで広告代理店市場への参入について述べてきましたが、市場の激化は各方面から訪れており、広告代理店市場が停滞する中にも関わらずプレイヤーが増え続け、かつてのような輝きを放ちづらくなっています。「広告代理店」と「コンサルティングファーム」の明確な違いも、分かりづらいものがあるのは事実です。ただ、「短期的売上=コンサル」「長期的売上=総合広告代理店の中で対応できる人もいる」とお考え頂ければと思います。「広告トータルプランニング会社」である当社もコンサル・総合広告代理店と似ている部分もありますが、「システムや媒体といった落としどころを持たずにフラットに戦略立案する」という点では両者と明確に異なると考えています。コンサル・総合広告代理店の激突は今度どのような形になっていくのでしょうか。


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