戦後の日本を支えた高度経済成長期。家電、持ち家、自家用車所有が敗戦国日本における復興、または富の象徴だった。1億総中流時代と呼ばれ、国民はこぞって同じ商品を購入し、広告もまたマスマーケティング絶頂の時であった。そこから経済が停滞、そして衰退するにいたって、国民の消費性向は大きく変遷していくこととなる。停滞期のブランドであれば「「広告戦略」で停滞する売上を打破するためのポイントとは?」をご覧いただきたい。本稿では、日本人の、過去の消費性向と今の消費性向の違いに焦点を充てつつ、今の消費性向に適したプロモーションのあり方について説明していく。
目次:少ブランド大量品種少量生産時代におけるプロモーションとは
少品種大量生産時代の戦後から高度経済成長期
戦後復興、そして日本がGDP世界2位に上り詰めるまでの高度経済成長期においては、明確に企業側も少品種大量生産時代であった。それは、メディアに登場する、富の象徴である家電や車などが、画一的なものであったからである。さらに、それらを所有することこそが、人の承認欲求を満たすものであったからである。人はこぞって同じブランドの商品を買うことになるが、この時代は規模の経済が最優先され、多品種にトライする企業側もそれを求める消費者も少なかったことは間違いないのである。
豊かな国になり、「自分向けの」商品を求める性向に
人口増加に停滞が見え始めた1980年頃、「個性」ということが叫ばれ始め、消費者側は「自分向けのもの」を求める性向が強まりだす。対応するように企業側も多種多様な商品を展開することが当たり前となり、多品種少量生産時代へと移り変わっていく。少品種大量生産時代とは異なり、企業側もコスト効率が悪くなるため、多少なりとも効率を意識し始めるようになる。さらに強く効率を強く意識し始めるようになるのは、バブルが崩壊してからであろうか。著者においても総合広告代理店に新卒入社した2004年も効率について問われ始めていた気がするが、「効率論至上主義」的論調も今ほどは強くなかった。
消費にリスクを感じ始めるきっかけが多発
多品種少量生産時代が定着し始めた2000年代において、消費に対するリスクヘッジを強めてしまう事件が次々と起こる。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、そして2020年から2021年現在も続くコロナである。いずれも経済全体に大きな打撃を与えることになるが、将来への不安から、日用品であっても慎重に商品やサービスを購入するようになっていく。経済の好転を期待されていた東京五輪についても、2021年5月現在で実施が確定していない状況にあり、先が見えない経済状況であることに変わりはなく、漠然とした不安が消費者を取り巻いている。
品質保証を求め、少ブランド多品種少量生産時代へ
リスクヘッジ消費が当たり前になる中で、商品やサービス選択時に明らかな性向の変化がみられるようになる。識別記号と知覚価値が明確に認識されているブランドばかりが選ばれ始めたのだ。自社ECやSNSを中心にじわじわとユーザーを獲得している新興ブランドもあるが、かつてのように数多ブランドが生まれ、消えていくようなサイクルではなく、着実に顧客・ユーザーを増やしたブランドがプロダクトを多様に展開することで成長を続けていくケースが増えているのである。
今、求められるプロモーションとは
日夜、市場には新規参入が発生している。規模の経済を活かしてブランド価値の高い大企業が新興成長マーケットにディスラプション目的に進出することも多い。その際も、そのカテゴリー市場においては無名であったとしても、そもそものブランドの提供価値が生活者の中で形成されていれば、購入に至ってしまう。アップル社がアップルウォッチに進出したケースはその好例であろう。こういった消費性向の日本において何が重要か。それはブランド戦略を前提としたプロモーションに他ならない。前提となるのは、明確な中長期的なブランド戦略である。しかし、とても残念なことは、ブランドによって購入が決まる現在の消費性向においてなお、ブランド戦略を描いている企業が少ないことである。
少ブランド多品種少量生産の日本において、ブランド戦略を前提としたプロモーションでなければならない中、未だブランド戦略を明確に描いていない企業が多いことは総合広告代理店にとっても、そして著者にとっても、極めて嘆かわしい状況である。ブランド戦略の重要性は「ブランディングとは」をご覧いただきたい。また、「広告トータルプランニング会社」である当社ではブランド戦略立案フレームワークの「BRAND PALETTE」、さらにブランドのライフサイクルを即座に把握するための「BLC」という二つのフレームワークを開発しているが、ブランド戦略が巷にあふれるようにならなければ日本という国における正しいプロモーション戦略は描けないと著者は考えている。
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