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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

広告代理店を取り巻く厳しい環境~競合参入篇①「TVメディア」~

更新日:2023年3月23日

高度経済成長期を終え、失われた30年と言われる日本において、マス広告を一手に引き受け、時代を謳歌してきた総合広告代理店を取り巻く環境が激変している。著者が総合広告代理店に勤務していた17年のうち、特に晩年は激変の時代であった。大きく変動のなかったTVCMへの投資額ランキングにおいても、大手広告主を押さえ、初めての出稿にも関わらず大量のCMを投下する企業も増えた。しかしながら、毎年の継続的なTVCM出稿とはならず、上位のTVCM出稿ランキングは毎年大きく変動している。そういった中で、新規参入も増え、停滞するTVCM市場において、市場がさらに激化しているため、本稿では新規参入にフォーカスを充てて説明していきたい。


目次:広告代理店を取り巻く厳しい環境~競合参入篇~


「スポット」見積もりパターンは「都度」「年契」の2つ

かねてより、TVCMの「スポット」を実施するには、大きく二つのパターンがあった。一つ目はCM出稿量とエリアと期間、対象広告内容を決めて、各TV局に対して見積もりを取るパターン。ここでは、総合広告代理店が介在し、広告主の担当営業がオーダーを受け、TVのプランを束ねる業推と呼ばれるスタッフに相談し、TV局ごとの担当者、これらを局担と呼ぶが、各TV局に対して見積もりを取ることになる。TV局は各広告代理店との年間契約の中でのその時点での達成率やマージン率などを加味し、さらに裏局と呼ばれる同エリア内他TV局のコストも踏まえながら、時にサービス提案、多くはパブリシティのサービスだが、サービス提案も付け加えて広告代理店の局担に返答する。総合広告代理店では業推がどのTV局を使うべきか、その割合をシェアと呼ぶが、広告対象物のターゲットに対して効率的なリーチを可能にするシェアを決めて、広告主に提案を行う。この際に、同じ広告主から複数の総合広告代理店に対して見積もりのオーダーを行うことがあり、総合広告代理店内およびTV局は情報収集を行いながら、混乱を少しずつ解消して提案を行うこととなる。二つ目は、年間契約を行う事である。日本では50社ほどの年間契約広告主が存在するが、たいていどこかの総合広告代理店が幹事代理店となって、各TV局と、年間の想定出稿金額をもって年間契約コストを決めていく。往々にして発生するのが、当初想定していた年間出稿金額よりも年度を終了した時点で総出稿額が下回ってしまうことである。その場合は、翌年の年間契約交渉時にTV局は交渉材料としようとするが、長い付き合いのある広告主の場合、しゃんしゃんに終わってしまうこともある。それぞれのメリットデメリットはあるが、最近では都度見積もりを取る広告主の方が増えている。ビジネスのスピードが速く、さらにコロナのように予想不可な事態が発生してしまうため、年間の想定出稿金額算出が難しいことがその理由である。


かつてTVCMは大手広告主と大手総合広告代理店の寡占

スポットは、年契クライアントの年間出稿金額でほぼTV局の商品である視聴率、いわゆるGRPが埋まってしまっていたため、大手広告主が寡占化していた。伴って、大手広告主を多く抱える大手総合広告代理店も同時に寡占化していたといえる。スポットだけではなく、2クール、つまりは6か月の契約を最低期間としていた番組提供、通称タイムも大手広告主が寡占化していた。限界産業であるTVはそういった一見さんお断りの、常連客である大手広告主だけが入店を許される、古き良き高級料亭のようなビジネスモデルであったのである。そのため、新たにTVCMを出稿したいという新規広告主に対しては、業態審査と呼ばれるTV局主導の審査があり、それを突破してもCM考査という難関がまた存在し、門戸を潜り抜けた後も関門があったのは事実である。



門戸開放のきっかけはデジタルの限界を感じた広告主

一見お断りの高級料亭のビジネスモデルが、門戸開放を余儀なくされたのは、リーマンショックや東日本大震災のような経済的な理由や災害よりも、デジタルメディアの成長が一番であったと考えられる。それは、自社ECを設け、直接顧客と取引を行うD2C、ダイレクト・トゥ・コンシューマーが活性化することで、デジタル内での顧客獲得に限界を感じ、マス広告を検討し始めたB2Cビジネスの広告主が増えたことと、B2Bビジネスではあれど中小零細企業向けのSaaS型ビジネスもデジタル広告での顧客獲得に限界を感じてマス広告を検討し始めた広告主が増えたことが重なっている。この点は「効率論で停滞期を迎えるデジタルのみの広告戦略」をご覧いただきたい。同時に、モバイルアプリのゲームやメディア事業者も、TVとの相性の良さからTVを検討することが増えたこともある。このあたりは「「広告戦略」で停滞する売上を打破するためのポイントとは?」をご参照頂ければと思う。



デジタル広告慣れした広告主による効率論の蔓延

デジタル広告はCPAやCVRのように明確に投資対効果が求められる反面、かつてのTVにはその指標自体が存在しなかった。そこで疑似的に、TVCMがオンエアされたタイミングから広告主のホームページ、商品サイトへのアクセス件数を把握することでの効果を図る活動が活性化していく。オンエアされてからサイト等へのアクセスをどれくらいの時間でカウントするかは業種によって、または広告主によってまちまちだが、ゲームアプリなどは2時間~1日以内でのアクセスと定義することが多かったように思う。これにより、どのTV番組枠が効果的なのかを把握することが疑似的にではあるものの、可能になっていく。


高速でPDCAを回す運用型TVCMの登場

さらに、効率論だけではなく、高速でPDCAを回すことをコミットした運用型のTVCMプランを提示する会社も増え始める。広告主の効率論や広告代理店にとっての非効率となるため、総合大手広告代理店は自らこのビジネスを展開してこなかったが、ノバセルなどの他業種からの市場参入により、各総合大手広告代理店も対応を余儀なくされた。さらに、少額からの出稿が可能ということも世の中に広く伝わり、少額で、運用型の、数多くの広告主を扱うTVCM市場へと変貌を遂げ始めたのである。


徐々に高額なTVCMを効率的に受注するビジネスが瓦解し始め、総合広告代理店にとっての非効率であったデジタルだけではなく、TVCMも手間暇がかかるビジネスになった今、TVCMに依存度の高かった大手総合大手広告代理店はどのような収益源を確保していくのか。「アウトソース化とインハウス化に翻弄される広告代理店」の中でも説明しているが、TVCMも「激安アウトソース」の一部となりつつある。媒体費に依存しない形でのビジネスモデルを模索し、著者は「広告トータルプランニング会社」である当社を設立したが、今後も、総合広告代理店のTVCMに対する取り組みは注目していきたい。


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