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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

広告代理店視点での、事業戦略とブランド戦略の違い

更新日:2023年3月23日

総合広告代理店に入社してから17年の間に、某大手通信キャリアと某大手食品会社をメインに担当していたが、両社に極めて貴重な経験を積ませてもらったと考えている。いずれも日本を代表する大企業であるが故、他の総合広告代理店も、電通や博報堂などの大手が出入りし、しのぎを削っていた。電通や博報堂と比べ、会社規模の戦いとなると太刀打ちができないため、私は「事業成長」「ブランド成長」にコミットすることでのポジショニングを獲ることとした。某大手通信会社では事業戦略を、某大手食品会社ではブランド戦略を担当することになり、双方の違いについて明確に理解している。本稿ではその点について説明をしていきたい。


目次:広告代理店視点での、事業戦略とブランド戦略の違い


ヒト・モノ・カネの三要諦全体を構築する事業戦略

某大手通信会社において、新規事業立案のマーケティングコンサル業務を請け負った際は、常にヒト・モノ・カネの視点で事業立案をしていた。その業務を私が請け負うことになった経緯としては、非常にニッチな市場であったため、他のコンサルティングファームでも知見があるわけではないという点と、単にコストであったと思っている。しかしながら、当該事業は、クライアント社内の40もの部署と交渉や調整を行い、半年かけてローンチに至ったことを記憶している。そして、その際に感じたのは、一つ目に、プロモーションを本業とする立場でヒト・カネに対して提言をしていくことの難しさである。二つ目に、事業会社の方がその事業について詳しく知っていることが当たり前という点である。通信に関わる技術的な面において、私がクライアント以上に詳しいはずはない。ターゲットの動向などは把握していたとしても、免許の仕組みや規制法についてもクライアントの方が詳しいのである。以降、私は新規事業立案だけはお受けしないようにしていたが、のちにFMCG系代表格となるような某大手食品会社の担当を希望するようになったのも、事業戦略を総合広告代理店が請け負う事の限界を感じたことが理由になっている。



広告依存度の高い食品メーカー希望に

某通信会社担当時代は様々な事業やサービスを担当させていただいた。すべてとはいかないが、明らかな成長に関われたものが多かったように思う。競合となる他総合大手広告代理店が「話題性」「認知」を軸に提案していた中、「成長」を軸に提案していたわけなので、当然と言えば当然である。しかしながら、通信会社の広告投資率、つまり、広告依存度は極めて低い。売上高比広告宣伝費率は1%にも満たない。つまりは、通信電波や料金や販路など、その他のスペックにビジネスの結果が左右されることが多く、広告によるビジネスの成長を信じがたかった。こうして、広告依存度の高い食品メーカーや飲料メーカーの担当を希望するようになり、念願かなって某大手食品会社担当となるのである。


モノに特化し、事業の垣根を越えていくブランド戦略

事業戦略への関与をあきらめかけていた中で、某食品会社担当はとても恵まれていた。同社においてデジタルシフトなど様々なご提案を差し上げたものの、ブランド戦略提案の機会に恵まれることが多かった点が、これまでとの違いである。ブランド戦略は、ブランドの傘下であれば商品は自由に提案することができ、通信会社のように一事業の中で複数のサービスブランドを整理することとは違い、ブランドが主導でいくつもの事業にまたがっていくような感覚を覚えた。さらに、モノを中心としているため、ヒトやカネはさほど気にせず済む。事業をまたがる時点で、クライアントとの知見差はさほどではなく、プロモーションを軸足に置いている著者にとっては、相性が良い提案領域だと感じた。こうして、事業内で複数ブランドを整理しながら、何よりヒトとカネのバランスも見ながら外部委託としてかかわっていく事業戦略と、一つのブランドを事業の垣根なく、モノに特化して提案していくブランド戦略との違いに明確に気づくことになる。さらに巷で聞くような「ブランディング」が誤解されながら広がっていることにも驚かされる。単なるイメージ戦略の域を出ないためだ。この点は「誤解されつつある「ブランディング」~「イメージ戦略」との違い~」で説明している。



本稿で説明したことは「ブランディングとは」でも説明している。軸足の違いによることは間違いないが、プロモーションに軸足に置きながら事業戦略を請け負っていくことは極めて難しい。よく広告代理店出身者が「新規事業立案」を過去実績として掲げていることも見るが、私からすると関わり方に対して懐疑的になるか、または事業戦略とブランド戦略の言葉の違いを理解せずに用いているだけなのであろうか。プロモーションに軸足を置く場合は、ブランド戦略であれば相性は良いが、事業戦略は相性が悪い。そういったこともあり、「広告トータルプランニング会社」である当社ではブランドを主語にしたライフサイクルである「BLC」をフレームワーク化しているものの、事業についてのフレームワークは開発していない。「総合広告代理店が事業戦略にコミットしていく日が来るのであろうか。

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