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  • 執筆者の写真バイタイム_西村 昭二

独特な商慣習の「TV広告」との向き合い方

更新日:2023年3月23日

TV広告に関する記事はネット上にもあふれているため、本稿では極めて簡潔にその性質などについて記載することとするが、非常に複雑なビジネスであることには間違いない。17年の総合広告代理店勤務時代で、一日たりともTV広告と付き合わない日はなかった。「初めてのTVCMで陥りがちな「罠」」でも説明している部分もあるが、本稿では基礎的な部分のみ説明していく。


目次:いまさら聞けない広告のこと⑤「TV広告」


TVは限界産業である

なにより大事なポイントがTVは限界産業であるという点だ。新聞も雑誌も、さらにはラジオも広告枠という商品に限りがある限界産業であるものの、なぜかTVにおいては、限界産業であることを忘れてしまいがちになる。限界産業とはすなわち、売ることができる商品に限りがあるということである。その商品は、様々な要因で値付けがなされ、時にそれは広告主にとって理解しがたい値上げを要求されることも多々ある。TVの商品とは視聴率そのものであり、誰もがCMを流したい人気のテレビ番組には極めて高額な値段が付く一方、流したくない番組にCMが流れてしまう事にもつながるのである。この限界産業であるという点を特に念頭に置いて媒体出稿を検討しなくてはならないのである。



TVは免許事業である

TV局は総務省が免許によって管理する「報道・言論機関」である。ただし、鉄道・電気・ガス・水道といった公益事業ではなく、あくまで「公共性の高い私企業」である。TV局の収入は地上波であれば広告収入のみであり、衛星放送は有料放送収入と広告収入の2種がある。ただし、TV局によるが、営業外収入が全収入の過半近くを占めることもあり、その営業外収入は主に不動産収入である。


営業部門のほか、編成、報道、事業部門などがある

広告主や広告代理店に出入りする営業部門のほかに、番組を取捨選択し、より高視聴率を獲得できるように番組を編成する編成部門、実際に番組を作る制作部門、報道機関たらしめる報道部門、スポーツに関わる企画を行うスポーツ部門、そしてイベントなどを取り仕切る事業部門などが存在する。


TVCMの特長は圧倒的なリーチと信頼性

TVを家に置かない若者が増えたとはいえ、まだインターネットと比較しても圧倒的なリーチを誇るのがTVである。インターネットの場合は、個別に最適化された様々なコンテンツが様々な接点で生活者と関わるが、限られた局数で限られた番組というコンテンツ性質を持つTVは、やはりいまだに圧倒的なメディアパワーを有している。さらに、免許事業であるがゆえ、広告を流して良いかの考査という審査基準も極めて厳しく、TVで流れたCMに対しては一定の信頼が担保されることも、TVCMを活用するメリットでもある。



TVでよく聞かれる「改編期」は4月と10月

TV番組は2クール、つまりは6か月ごとに大きく編成が変わる。そのため、各々の数か月前からどのような番組が編成される予定で現行番組提供スポンサーが継続するのか降板するのかなどの情報収集が発生する。広告代理店はこの時期にてんやわんやすることになる。


15秒を主体としたスポットと番組提供の2種類

番組本編を提供する形態で提供表示がなされ、30秒のCMが流れるものをタイムCMという。また、番組と番組の間に流れたり、番組の中でも提供表示なく流れる15秒のCMをスポットCMという。さらに、タイムはネットタイムという全国統一の番組が流れるものと、そのエリア限定で独自の番組を編成するローカルタイムとがある。いわゆるゴールデンタイムと呼ばれるものが、ネットタイムであることが多い。ネットタイムであればその番組を制作しているTV局に対して番組提供の申し込みをするのだが、すべて在京キー局が制作しているわけではなく、準キー局などが制作している番組などもある。また、タイム提供は2クール、すなわち6か月の番組提供が原則となっており、同時に人気枠は空き枠が出ることもまれである。たとえ現行提供スポンサーが降板して空き枠が出ることになっても、その人気枠狙いで大手スポンサーが別の枠を提供しながら待ち構えていることもあり、新規で人気番組の提供を狙うことは難しいのが実態である。スポットは、大手広告主50社ほどは年間契約を結んでいるが、それ以外はすべてTV局に対して見積もりを取ることから始まり、絵柄と呼ばれるスポットが流れるゾーンの狭さや時間帯、業種、希望枠の量、出稿量、他TV局よりもシェアを寄せるなどの条件により、料金はさまざまである。


GRPが未達だったとしても払い戻しがない商慣習

TVは将来のオンエアを事前に買うという性質のため、予測された視聴率によって売買が成立する。TV売買においては視聴率1%を1GRPと呼ぶが、たとえそれまで毎回20%の視聴率を獲得していた番組であっても、オンエアで15%しか視聴率が取れないという事も多々ある。そういった際にも、すでに払い込みは完了しているため、未達分の返金などには応じないのが商慣習である。デジタル広告になれたクライアントなどは合点がいかず、クライアント、広告代理店、TV局を巻き込んでトラブルとなるケースも多い。



CM考査をなかなか突破できない

薬機法や景表法、さらにその他各種法令によって広告物は表現が規制されているが、TV局には考査担当という部署が存在し、その考査を突破する作業に意外にも労力を要することが多い。CMの撮影前にはコンテの段階で考査にてOKをもらっていなければならないが、このプロセスを忘れ、CM撮影後に考査に回してNGが出てしまうケースなども稀に存在する。考査にかかる時間は1度で1週間程度と長く、複数回にわたって考査にかける可能性もあることから、CMの企画コンテが固まった段階で考査にかける作業も同時に発生することを忘れてはならない。


CM素材進行がオンラインに

こちらはCM制作になれた制作会社であれば問題ないが、かつてはベーカムと呼ばれるCMを入れたメディアをTV局にオンエア約1週間前に搬入していたが、最近ではオンライン送稿に代わっている。TVCM制作の詳細については「これでCMの悩みがゼロに!?CMとドラマと映画の、「制作方法」の違い」をご覧いただきたい。


このように、単にTVCMと言っても複雑な商取引形態となっている。昨今では運用型TVCMバイイング事業が隆盛しつつあるが、こういった実態を把握せずに不慣れにTVCMを実施してしまうと失敗に終わるケースもしばしば。「広告トータルプランニング会社」である当社では、その流れをきちんとお伝えすることに終始しているが、一度に投資する金額が高いからこそ、慎重に実施すべき広告媒体である。



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